2005年5月17日(火)「しんぶん赤旗」

シリーズ 9条改憲 ここが問題

−番外編−

地方紙、永田町主導に警戒


 憲法問題で地方紙の社説が注目を集めています。総合月刊誌『論座』6月号は、憲法特集で「地方紙の論説トップはこう考える」として7社の責任者の一文を掲載。日本新聞協会発行の『新聞研究』5月号には「地方の視点で憲法論議をとらえ直す」という担当デスクの論文がのっています。いま地方紙は改憲論の何を問題にしているのか。憲法記念日の社説を中心に改めて見てみました。


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憲法記念日の地方紙社説

 地方紙は憲法問題をどんなスタンスでとりあげているのでしょうか。『論座』六月号の特集では改憲論に立つ北国新聞をのぞいて、永田町主導の性急な改憲論議に警戒の目を向ける点で各社共通しています。

 たとえば信濃毎日新聞の論説副主幹は、「慎重な上にも慎重に臨まないといけない」「慎重に構えよう、との主張はむろん、永田町で進む改憲論議を念頭に置いている」と主張。西日本新聞論説委員長も「永田町主導で進む改憲論に対し、国民自らに、是か非かを『判断できる確かな目』を持ってもらいたい」としています。

 北海道新聞の論説主幹は、「直線的な論理は時として重い課題を削ぎ落とす」と警告。「永田町で進む改憲の動きにも同じような危うさを見る」と指摘します。

 神戸新聞論説委員長は「行き詰まり感と将来不安に駆られて、『国の骨格を変えよう』と口にする。4月初めに出てきた自民党新憲法起草委員会の改憲要綱にも、そうした空気と気分が詰まっている」と指摘しました。

 また、『新聞研究』五月号で熊本日日新聞の報道部次長は、「憲法論議に関する情報は国会、政府、政党、財界、各種団体の動きとして『東京発』の形で発信されることが多い」とのべ、「憲法論議を『地元発』の形でとらえ直すことができるのではないか」と問題意識を語っています。

侵略戦争繰り返さぬ決意

歴史の教訓

 地方に密着した新聞だけに、改憲の焦点となる九条について、地方紙はそれぞれの地方の歴史、アジアへの侵略とのかかわりと反省、国民的惨禍をくりかえさない決意が込められている点を指摘しています。

 中国新聞は、「戦後、日本人が戦争で血を流さなかったのは憲法九条の成果といってよい。ヒロシマ・ナガサキなど戦禍に苦しめられた国民は、平和実現のための原典として現憲法を受けとめているのは間違いない」と主張。「戦後の平和主義の伝統を喪失してはならない。核廃絶や完全軍縮の実現、南北格差の解消や女性の地位向上などに努力する。長い目で見ると、一番ふさわしい選択」と締めくくっています。

 信濃毎日新聞は、満蒙開拓団に多数の県民がかりだされた歴史をふまえ、「世論を底の方へ掘り進んでいくと、『戦争はこりごり』という骨の髄からの実感、歴史への反省にぶつかる。例えば長野県内で数多く開かれている憲法についての勉強会に顔を出すだけでも、そのことはすぐに分かる」とのべています。京都新聞は「最近、中国、韓国との関係が悪化しているのが気掛かりだ。憲法の精神を考えれば日本の軍国主義化はあり得ない。憲法前文と九条には大戦の惨禍に対する反省と平和への決意が込められている」とのべています。

 そのほか「わが国は現憲法制定後、戦禍に巻き込まれることはなかった。第九条のたまものと言っていい」(岩手日報)、日本の平和と繁栄は「敗戦の反省に基づいた九条の平和主義の理念があったからで、アジア諸国の信頼醸成にもつながってきた」(徳島新聞)としています。

2項の意義

 自民党、民主党が「九条一項は残し、二項を改変する」という方向を打ち出している中、二項の意義に光を当てる主張もあります。

 琉球新報は「憲法の危機・『戦力不保持』は平和主義の要 見直す理由が見当たらない」と題する社説で、「(九条一項は)国際標準といえるが、二項で『戦力不保持』に踏み込んだことは大きい。二項は戦後、政府が拡大解釈を繰り返し、骨抜きになっているとはいえ、一切の軍備を禁じていると読める。この項こそ平和主義の要となる部分であり、世界に誇れるゆえんだ」とのべています。

 山陽新聞は「政府が日米同盟を背景に自衛隊の行動を海外へ拡大させながらも、二項によって自衛隊が武力行使に走らぬ歯止めとなってきたことも事実だ。現実に合っていないから外せとなれば、米国追随を強める日本は、海外での武力行使を加速させる事態にもなりかねない」と指摘。高知新聞も「日米同盟にもかかわらず、米国の戦争に直接まきこまれることがなかったのは、憲法の制約を理由に、専ら非軍事部門での協力にとどめたことによる」とのべています。

 また、九条改憲の動きの背景について沖縄タイムスは、「改憲を望む側には、軍備を持ち“日米同盟”をさらに進めていこうとする考えがあるのではないか」とのべ、信濃毎日新聞は「ブッシュ政権は、集団的自衛権は行使できない、とする政府見解の足かせを外させるために、改正を促す声をしきりに送ってくる」とのべました。

「現憲法生かせ」と主張

 こうした改憲論の批判は、現憲法生かせとの主張と一体です。

 神奈川新聞は、衆参の憲法調査会の報告書について、「両報告書の内容には多くの疑問点がある」「何より、憲法から現実政治を検証する姿勢が欠落している。現在の日本は、憲法をしっかり守り、その理想を実現する努力をしているのだろうか。問われるべきは、憲法ではなく政治ではないだろうか」「日本国憲法を十分に生かし切ることをまず考えたいものだ」と問題提起しています。

九条の会にも注目

 「九条の会」の広がりにも注目が集まっています。

 京都新聞は「拡大する九条の会」の中見出しをたてて、「全国九都市で開催した『九条の会』主催の講演会には、約三万人が参加する盛況ぶりを見せた。趣旨に賛同する人々が地域や職業別などの形で個々に『九条の会』を誕生させ、これまでに千二百団体以上の『九条の会』ができている」と紹介。「京都では今年四月、仏教やキリスト教などの宗教者らが宗派を超えて『宗教者九条の和』を結成した。このような『九条の会』の活動からは、平和を求める市民の強い熱意がうかがえる」と評価します。

 中国新聞は「改憲の動きに抗して、昨年六月に発足した『九条の会』は全国で千二百八十のグループが結成された。各地の講演会は満員という。九条を守る動きも潮流になっている」と指摘しています。


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