2005年5月7日(土)「しんぶん赤旗」
主張
全頭検査緩和の答申
安全ゆがめる国民無視の姿勢
内閣府の食品安全委員会が、国内のBSE(牛海綿状脳症)対策の柱である全頭検査の緩和を容認する答申をまとめました。
四月二十七日までの一カ月間実施した意見・情報募集にたいし、国民から、全頭検査の継続を求める声が多数寄せられていました。国民世論を無視してまで国内のBSE対策を後退させるのはなぜなのか、問われます。
緩和の理由はない
答申は、全頭検査の見直しのほか、感染源の異常プリオンが蓄積する特定危険部位の除去の徹底や、飼料規制の実効性確保、調査研究の一層の推進をあげています。これらの強化策については、国民も賛意を示し推進を要求しています。食品安全委員会の報告と世論の方向が一致しています。
ところが、全頭検査の緩和については、食品安全委員会と世論が一致していません。
全頭検査の意義については、BSE感染牛を食物連鎖から排除する点でも若い感染牛を発見できた点でも、食品安全委員会は評価してきました。それがなぜ、緩和の方向に踏み出したのか。
答申では、全頭検査の緩和に賛成する国民の意見として、「検査することによる税金の無駄づかい」が紹介されています。それにたいし、食品安全委員会は「検査費用については今回の検討の対象としていない」と答えています。全頭検査緩和の答申をだした理由ではないということです。
国内的には、全頭検査を見直さなければならない理由は見当たらないのです。
全頭検査を求める国民の声を反映した答申にしてほしい―との意見にたいする食品安全委員会の回答は次のようなものです。
「リスク評価は『多数決(数の大小)』で行われる性格のものではなく、あくまでも科学的知見にもとづいて行うことが原則です」
しかし、BSEの人への感染、発症については未解明な部分が多く、科学的知見も限られています。だからこそ、予防的見地も含め、国民の多数は全頭検査の継続を要求しています。そこに耳を傾けることが、食品安全委員会が重視している「リスクコミュニケーション」というものではないでしょうか。
食品の安全・安心は、国民の信頼がなくては成り立たないものです。これまで政府は全国四十七都道府県五十会場で意見交換会を行ってきました。そこで出された多数の意見を尊重しないというのは暴論です。
全頭検査の緩和は、米国産牛肉の輸入再開のための布石ではないのかという国民の疑問にたいし、食品安全委員会は、“無関係”といいつづけてきました。
しかし、ここにきて、米国産牛肉の輸入再開にむけて、議論と結論を急ぐなら、食品安全委員会の“二枚舌”が国民の前にさらされることになります。
米国の圧力に屈せず
食品安全委員会に寄せられた国民の意見では、米国産牛肉について、月齢の判別方法や飼料の管理、特定危険部位の除去など、多数の疑義が出されています。何よりも、BSE検査がほとんど実施されておらず、BSE感染牛の実態が不明です。日本と同じような全頭検査をしてこそ、安全性の評価も可能になります。
米国の圧力に屈して、“輸入再開先にありき”を許すわけにはいきません。