2004年10月17日(日)「しんぶん赤旗」
お店の米の値段があまり変わっていないのに、生産者米価は暴落している―農家の手取り価格は、昨年に比べ五割から四割安くなっています。大豊作かというと作柄は平年並みで、むしろ新米は不足がちです。日本の食や文化の中心になっている稲作ですが、産地には崩壊の危機の不安が広がっています。こんなことがなぜ起きているのでしょうか。
中沢睦夫記者
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数千円の赤字出荷 |
「いまは千円札を何枚も米袋に張りつけて出荷するようなものだ」。埼玉県加須市で米と麦を二十ヘクタール栽培する小山欽次さん(50)は、同地域の農協が示した事実上の農家手取り米価となる「仮渡価格」表を見ながら怒ります。
一覧表には、コシヒカリ一等六十キログラムで一万一千二百円、キヌヒカリ九千七百円、そして同県が奨励する銘柄「彩のかがやき」は八千八百円などとあります。
米づくりにかかる費用は埼玉県の平均で六十キログラム当たり一万九千円余となっています。農機具や肥料など物財費だけみても九千二百六円かかります。借地料や金利もかかり、この手取り米価では労賃が出ない状態です。全国的にも同県とほぼ同じ生産費がかかります。(グラフ1)
各県の全農(全国農協連合会)が発表した二〇〇四年産米仮渡価格では、ブランド米がない埼玉県をはじめ、各地で一万円以下の銘柄米が出ています。(表)
埼玉県農民連の松本慎一事務局長は「昨年はコシヒカリを二万一千円で買いにきた業者もいたが、今は半値だ。『今年は古米がだぶついている』といってわずかしか買わない。この低米価では埼玉の農家は続けられない」と危機感を表します。
農水省はかつて、“国が需給調整をやめたとき生産者米価は輸入米価格水準となる六十キロ八千円まで低下し、稲作農家は生産をやめるから一万二千円程度に落ち着く”と試算したことがあります。すでに一部の産地・銘柄はこの水準に暴落しています。(グラフ2)
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需給は市場まかせ |
昨年は冷害(作況指数90)で米の収穫量が減るなか、入札価格が暴騰しました。二〇〇二年(一昨年)産の平均価格は六十キロ一万六千円程度だったものが、昨秋から冬にかけ二万三千円以上となりました。それが今年春先から急落しています。(グラフ3)
暴落の要因を、集荷団体の米穀担当者は次のように説明します。
「各県の全農や卸売会社は、〇三年産米を高く買ったがいま売れないで残っている。億単位の赤字があり、それを〇四年産米で取り戻さなければならない。値段が上がる見通しがないなかで、生産者には安い価格しか提示できないのだ」
かつては食糧管理法のもと、国が生産コストに見合う価格で買い入れ、生活の安定を考慮し安い消費者価格を設定していました。入札制度も、一定の値段の上下幅にしか入札できない「値幅制限」を実施していました。
しかし現行の食糧法(主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律)は、〇三年十二月に小泉内閣が決めた「米政策改革大綱」のもと、米は野菜のように“普通の商品”と位置付けました。
業者が安定的に仕入れできる「計画流通制度」は四月から廃止になりました。米相場はいっそう市場まかせになりました。これを見越して昨秋は、大手卸売会社数社の買い占めもあり、中小卸や米屋さんに米が十分回らない事態もでました。「もう政府に頼ってはいられない」との考えが流通関係者を支配し、高価格でも仕入れざるを得なくなりました。これが昨年の一時暴騰を生み出しました。
農水省は〇三年十月から七、八年前の超古米を中心に一万円程度で大量に放出しました。〇四年度予算概算要求時では、家畜のエサやプラスチック原料に予定していた古い米です。
こうした超古米は、もっぱら低価格米を仕入れている外食や給食に流れました。古米臭を消して味をつける炊飯用添加剤も販売されました。スーパーなどの店頭には「複数原料米」と表示し、中身が分からない形で並びました。
政府米在庫は百万トンが「適正備蓄」とされていますが、放出の結果六十万トンしかありません。最大の卸売会社になった農水省は「需要がある」といい、外食業界のために過剰販売したことで、こんどは価格が暴落し、しわ寄せが生産者、流通業者にきています。
〇四年産米は同期落札価格としては過去最低水準になっています。しかも、売り手側は希望価格を高くして値崩れを防ごうとし、上場数量は前年より少ないにもかかわらず買い手がつかず、売れ残りが多数発生している状態です。
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政府の緊急買入れ |
農水省は、批判の高まりのなか、ようやく四十万トンの買い入れを表明しています。
日本共産党は、紙智子参院議員と高橋千鶴子衆院議員が九月三十日に「米価暴落にたいする緊急対策および米価安定対策」を農水省に申し入れています。このまま放置すれば米生産農家は経営破たんし、国民の主食の安定、米生産と農村経済を根底から崩壊させることになりかねないと指摘、
◇七、八年前の超古米は主食用売却を中止して市場隔離をする
◇〇三年産、〇四年産米を少なくとも百万トン買い入れる
◇買い入れは入札でなく、適正価格で早期に
◇輸入米(ミニマムアクセス米)はストップする
◇米政策改革大綱を見直し、米穀価格形成センターでの入札に値幅制限など米価安定の仕組みの確立を
◇暴騰・暴落前提の先物取引の導入はしないこと―を求めています。
業者や農民の犠牲の一方で、消費者価格はすぐには下がりませんでした。農水省の卸・小売価格調査(九月)では、新米がようやく前年価格よりも下がったものの、それまで銘柄米は10―30%も高い状態でした。
「銘柄米は値上がりする一方で、まずい超古米の外食では消費者の米離れがすすむ」との不安が米屋さんや生産者からあがっています。
稲作の放棄と消費者の米離れは、農水省も推奨するご飯中心で健康的な食生活の推進とも逆行しています。食料自給率は低下するだけです。
日本の伝統食を考える会の宮本智恵子代表は、「お米の生産ができなければ郷土食はますます衰退します。米があってこそ日本の食文化があります。どの地域でも稲作が発展することが大事です」と強調します。