日本共産党

2004年9月15日(水)「しんぶん赤旗」

博士も就職が大変[上]

受け皿なく、院生増加


 増やせ増やせという政府の重点政策のもと、受け入れ定員が過去最高となった大学院。博士号を取得したものの就職できない人が増え続け、文部科学省が来年度、予算をつけて実態調査に乗り出す事態となっています。

 坂井希記者


グラフ(1)

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 「国は実態すらつかんでいないのかと驚きました。でも、この分野に光が当たるのは歓迎です」。東京大学の大学院理学系研究科博士課程で学ぶ浜田盛久さん(30)は語ります。

 「博士余り現象」が深刻化することは、以前から予想されていました。

 博士課程修了者は、一九八〇年には三千六百人余。一九九〇年には五千八百人を超えました。

 翌一九九一年、政府の大学審議会が「大学院の量的整備について」という答申を出し、大学院生数を二〇〇〇年度までに少なくとも二倍程度にするという数値目標を掲げます。背後には、アメリカ型の大学院を「成功モデル」に、学術研究機関としての性格が濃厚だった従来の大学院を、高度職業人の養成機関、産業界とのさまざまな協同を行える研究開発機関へと転換させようという動機が働いていました。

修了者4倍に

 その後、この目標どおりに規模の拡大が進み、博士課程修了者は二〇〇四年には約一万四千五百人に達しました。一九八〇年と比べると、実に四倍以上にふくれあがったのです。

 しかし、博士号取得後の受け皿となってきた大学教員の採用数は、それに見合って増えませんでした。博士課程卒業者の就職先に占める大学教員の割合は、一九八〇年の約60%から二〇〇四年には29%へと半減しました(グラフ(1))。

 民間企業に技術者などとして就職する例も増えてきましたが、就職率は企業の雇用抑制・リストラ、若年層の失業率の悪化などを背景に年々低下し、二〇〇四年には54・4%となっています(グラフ(2))。

グラフ(2)

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博士号を敬遠

 大学審答申は、大学院卒業後の進路について、“少子化で大学教員の需要増は見込めないが、民間企業における大学院修了者の需要はかなりの拡大が見込まれる”との甘い予測を立てていました。実際には、「博士号取得者は社会経験に乏しく、企業のニーズに無関心」などとして、採用を敬遠する企業も多いのが実情です。

 「博士課程を出た人を受け入れる社会的な器がないもとで、無責任に大学院生を増やしてきた政府や、予算欲しさに定員増を安易に受け入れてきた大学の責任は大きいと思う」と、前出の浜田さんはいいます。「研究職を増やすとともに、企業や行政機関も活躍の場を広げてほしい。研究して身につけてきたものを社会に還元することが、私たちの責任でもあると思うので」

“ポスドク”支援

 文科省が当面実態調査の対象とするのは、博士課程修了後、定職に就く前に、給料を支給されながら任期付きで大学や公的機関で研究しているポストドクター研究者です。“ポスドク”は、国が一九九六年に「ポストドクター等一万人支援計画」を打ち出してから急増し、現在全国に約六千人います。毎年約二千人、博士課程修了者の10―15%が、新規に採用されていると見られます。

 支援を受けている間は生活の心配なく研究に打ち込める貴重な制度ですが、一番の問題は、将来の見通しが立たないことです。“ポスドク”の任期は通常三年、長くても五年。その後の就職保障はありません。正式に雇用されているわけではないため、住宅手当や扶養手当などがなかったり、医療や年金も学生や自営業者と同じ国民年金や国民健康保険に加入しなければならないなど、待遇面で不利益を受けている人もいます。

 絶えず次の職探しをしながら研究しなければならない不安定な制度に対し、「腰をすえた研究や大きなチャレンジができない」「業績を増やすため、とりあえず論文になる研究を、という発想になりがち」などの声があがっています。

 (つづく)


 博士号 学校教育法に定められた学位の一つ。博士号は、「専攻分野について、研究者として自立して研究活動を行い、又はその他の高度に専門的な業務に従事するに必要な高度の研究能力及びその基礎となる豊かな学識を養う」(大学院設置基準)ことを目的とした博士課程を修了した人、あるいは博士と同等以上の学力があると認められた人に授与されます。授与の要件や審査の方法は学位規則(文科省令)に定められています。



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