日本共産党

2004年9月12日(日)「しんぶん赤旗」

ここが知りたい特集 米大統領選の仕組み

アメリカの大統領 どう決まる

複雑、致命的な欠陥


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 11月2日投票の米大統領選挙は、「対テロ戦争」の名で危険な戦争政策を展開してきたブッシュ政権が継続するかどうかが問われる、国際的にも特別に注目される選挙です。世界最大の軍事・経済大国の指導者は、どのような過程で決まるのか。独特で複雑な米大統領選の仕組み、それができた背景、その問題点は?岡崎衆史、坂口明記者

間接選挙で

 四年に一度の米大統領選は、(1)共和、民主の二大政党が各州でそれぞれの大統領候補を選ぶ予備選挙・党員集会(一―六月)(2)予備選を勝ち抜いた候補と同候補が選んだ副大統領候補を各党の全国党大会で正式に指名(八月)(3)予備選で選出された二候補が争う一般選挙(十一月)―と三段階で行われます。選挙実施は州が責任を負います。

 一般の有権者が投票する「一般投票」は、「十一月の第一月曜日の翌日」に行われることになっています。その最大の特徴は、有権者が大統領を選ぶ直接選挙ではなく、有権者が「大統領選挙人」を選び、次に選挙人が大統領を選ぶ間接選挙となっていることです。

 選挙人による選挙は、「十二月の第二水曜日のあとの月曜日」に行われることになっています。しかし、これは形式的なものにすぎません。

 各州に割り当てられる選挙人の数は、各州で選出される連邦上下両院議員の合計です。連邦議員を選出する権限のない首都ワシントンDCも三人を選び、総計は五百三十八人です。上院議員は各州二人ですが、下院の定数が変わるため、各州の選挙人数は選挙年によって異なります。

 一般投票は、選挙人ではなく、候補者に対して行われます。選挙人総数の過半数(二百七十人以上)を得た候補が勝者となります。メーン、ネブラスカ両州以外の州で、得票首位の候補が州内の選挙人全員を獲得する「勝者独占」方式を採用しています。

 カリフォルニア(選挙人五十五人)、テキサス(三十四人)、フロリダ(二十七人)など、選挙人の数が多い上位十一州すべてで勝利すれば過半数を獲得でき、他の州すべてで負けても勝利できます。

 勝者独占方式は、小選挙区制と同じで死票を多く生みだし、第三党の進出を阻んでいます。一九九二年の大統領選では改革党のペロー氏は、18・9%の得票率だったのに、選挙人を一人も獲得できませんでした。立候補手続きでも、多くの州は、二大政党以外の候補者の出馬に大量の署名集めを義務づけています。

 十八歳以上の米国民が選挙権をもちますが、投票するためには居住する自治体で「有権者登録」をしなければなりません。前回二〇〇〇年の選挙で有権者登録したのは、十八歳以上の国民の76%でした。投票日も火曜日で、勤労者は投票しにくくなっています。

 死票の多さ、第三党締め出し、投票の難しさなどは、有権者の投票意欲を弱め、一九七〇年代以降の投票率は49―55%となっています。

 大統領選投票日には、上下両院議員選挙や一連の知事選、州・地方議会選なども同時に実施されます。

逆転当選も

 米大統領選の仕組みの根本的な欠陥を露呈させたのが、二〇〇〇年十一月の前回選挙でした。この選挙では、二大政党の大接戦となり、勝敗を決したフロリダ州での票集計が混乱を極めたため、三十六日間も結果が確定しませんでした。結局、連邦最高裁が乗り出して決着。その過程で、民主主義の根幹である選挙制度の致命的弱点が浮上しました。

 最大の欠陥は、国民による一般投票でより多くの票を獲得した候補が、選挙人による間接選挙という制度のために負けてしまったことです。民意を正しく反映しない「逆転当選」は、女性や黒人の参政権が制限されていた十九世紀には一八二四年、七六年、八八年と三回ありました。しかし、二十世紀では最初で最後となりました。

 一般投票の結果は、民主党ゴア候補が五千九十九万票(得票率48・38%)、共和党ブッシュ候補は五千四十六万票(同47・87%)。ゴア氏の得票は、第二次世界大戦後の十四回の選挙で民主党が獲得した票としては絶対数では最大でした。

 にもかかわらず、二百六十六人の選挙人しか得られなかったゴア氏は、二百七十一人のブッシュ氏に負けることになったのです(一人は棄権)。

 フロリダ州では、わずか五百三十七票差の一般投票の結果、同州に割り当てられる二十五人(当時)の選挙人全員をブッシュ氏が獲得しました。

 同州の選挙では、一部の郡で使われた投票機械が古く、誰に票を入れたか判明しない事態が続出。「これが世界に誇る米国民主主義の実態か」と全世界を驚かせました。根本には、選挙の政治的中立性を確保すべき州選挙管理委員会(三人)の一人であるハリス州務長官がブッシュ選対幹部であるなど、選挙の公平性が確保できない欠陥がありました。

 こうした選挙結果のため、四割の国民が、ブッシュ氏の選出は正当性を欠くと考えました。9・11同時テロを契機にブッシュ氏が凶暴な侵略戦争を展開した背景の一つに、この国民の不信感を払しょくしたいとの動機があったことは、広く指摘されています。

217年前制定

 なぜこんな仕組みになっているのか。民主主義の発展がまだ生成期にあった米国建国時の二百十七年前に決められた制度が、基本的に改善されずに今日まで続いていることに問題があります。

 米国建国は先駆的な意義がありました。しかし、民主主義の理想を掲げる一方で奴隷制を容認するなど、時代の歴史的制約は免れませんでした。

 米国憲法は、一七八七年に制定された、世界で最も寿命の長い成文憲法です。ところが、これには、国民の選挙権を明文で保障した条項はありません。人種や肌の色で投票権が制限されない(修正一五条)などの間接的な規定があるだけです。憲法二条は「各州はその州議会で定める方法により…選挙人を選任する」と定めています。連邦制のもとで、大統領選には各州が責任を負うことになっています。

 では、なぜ「選挙人」による間接選挙なのか。

 米エール大学のロバート・ダール名誉教授は、この制度の立案者が、「人民は手に負えない暴徒」だから「人民による支配に抗する憲法上の障壁」がいるという愚民思想を抱いていたと指摘しています(『アメリカ憲法は民主的か』)。

 政治に疎い一般国民に直接選挙権を与えると、どんな結果になるか分からない。だから分別のある大統領選挙人を選ばせる間接選挙にしたというのです。こうして「アメリカ版の選出された君主」(同書)である米大統領の選挙方法が決まります。

 その後、二百年以上がたち、比例代表制の導入など選挙制度の改革が世界で進んだのに、米国は自国の政治モデルに固執したまま、今日に至っているというわけです。

改革の動き

 選挙制度の欠陥を改革しようという動きもあります。

 米連邦議会ではこれまでに、選挙人制度の廃止を求める七百件以上の修正案が提出されました。一九八九年には、選挙人を廃止して、直接選挙を行う憲法修正案が提出され、賛成三百三十八、反対七十の圧倒的多数で承認。しかし、現行制度では人口の多少にかかわらず各州二人と定員が固定している上院で、発言権が大きい人口少数の州の議員が反対し否決されました。

 前回選挙の大混乱後も、選挙制度改革の声は高まりました。しかし結局、基本的に何の変化もないまま今回の選挙を迎えています。混乱の舞台となったフロリダ州をはじめ約半数の州で、電子投票機が導入されました。しかし、その信頼性にも疑問が出ています。各州の選管は、フロリダの混乱の再発がないか気をもんでいます。二大政党はすでに、選挙結果をめぐる裁判闘争の準備を始めています。


米大統領選のこれまでと今後の主な日程

2004年

1月19日 アイオワ州で民主党の最初の党員集会が開かれケリー氏が勝利

3月2日 民主党がカリフォルニア州など10州で予備選・党員集会を行い(スーパーチューズデー)、9つの州でケリー氏がトップで事実上、指名確定

7月26〜29日 マサチューセッツ州で民主党全国大会。大統領候補にケリー氏、副大統領候補にエドワーズ氏を指名

8月30日〜9月2日 ニューヨークで共和党全国大会。大統領候補にブッシュ氏、副大統領候補にチェイニー氏を指名

9月30日 10月8日 13日 大統領候補討論会(順番に、フロリダ州、ミズーリ州、アリゾナ州)(予定)

10月5日 副大統領候補討論会(オハイオ州)

11月2日 一般投票

12月13日 選挙人投票

2005年

1月6日 選挙人投票の結果を議会で発表

1月20日 新大統領就任式



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