日本共産党

2004年2月23日(月)「しんぶん赤旗」

4月から農家排除の「米改革」

荒廃田んぼ増えるだけ

市町村は混乱・不安


 四月から、稲作農家と農地つぶしの「米政策改革」がスタートします。市町村は三月中に新たな減反計画(地域水田農業ビジョン)の作成を迫られています。生産調整(減反)への交付金は、大幅に削減。価格保障は廃止され、食料自給率向上はおろか、麦や大豆は水田転作の作付け条件がいっそう悪くなります。「このままでは荒廃田んぼが増えるだけだ」と不安の声があがっています。


 これは小泉内閣がすすめる市場原理万能の「構造改革」の一環です。「米政策改革大綱」にもとづき二〇一〇年をめどに稲作農家の九割以上を農政の対象から切り捨てます。“WTO(世界貿易機関)やFTA(地域自由貿易協定)で農産物輸入自由化に耐えられる大規模経営体・法人事業体に改革する”との青写真(「米づくりの本来あるべき姿」)をつくっています。

 日本の主食の米を「普通の商品」として位置付け、管理責任を放棄します。価格保障や転作助成金を廃止・削減する方向を示しています。

 大豆に転作する水田面積を市町村に配分していたやり方から、米の生産目標数量を配分し、減反を100%達成しても翌年六月に在庫があれば(米が売れなければ)翌年の生産数量を減らすという厳しさです。一方、生産者も流通業者も売り買いは原則的に自由となります。三年から四年後に水田担い手計画(地域水田農業ビジョン)を見直すとしています。

転作交付金は大幅削減

 各地の市町村では「米政策改革」の説明会が開かれています。明らかになっているのは、米の生産調整にともなう水田転作助成金が大幅に減らされることです。

 二月一日に説明会を開いた福岡県椎田町では、説明会に参加した京築農民組合(農民連加盟)の木本正見さんによると、昨年に比べ四分の三に減っていたといいます。

 生産調整に参加する「メリット措置」としての交付金(産地づくり対策交付金」)は、農家が各種の拠出金を負担しないと交付されません。拠出分を差し引くと、昨年まで十アールあたり最高五万円程度あった助成交付金は、二万二千円程度と半減していたといいます。

 大豆や麦は米に比べても市場価格は安く、助成金がないと赤字になり、作付けできません。木本さんは「まだ農民組合員しか理解されてないが、これでは麦・大豆の転作に協力できないという農家が多く出るのではないか」と心配します。

 交付金削減は全国的です。交付金は都道府県に国から一定基準のもとで配分され、さらに市町村に配分となります。

 交付金の市町村配分額を公表している愛知県によると、「県段階で10%から15%は減っている。市町村には、転作麦や大豆の団地化がなく、認定農業者(大規模農家や法人)という担い手農家がいないところは額が低くなる」(県園芸農産課)と説明します。

山間地は担い手いない

 今回の麦・大豆の転作が厳しくなるのはもう一つ理由があります。厳しい品質要件を導入して、農家の作付け意欲をなくしているのです。麦は一等、大豆は一等か二等の上級品質でないと交付金を減らします。

 埼玉県杉戸町で八ヘクタールの田んぼに麦や大豆を転作してきた大規模稲作農家(60)は「転作の手伝いをしてきた」といいつつ、「麦や大豆はいつも良い品質とはならない。連作障害もあるし、雨が降ったらすぐだめになる。交付金がないなら赤字でやれない」と話します。

 山間地をかかえる地域はさらに深刻です。麦・大豆の集団作付け化も大規模農家の「担い手」もなく、今度の転作体系では交付金が激減するからです。

 岐阜県飛騨地方の実情を知る農民運動岐阜県連合会の中島新吾事務局長はこう批判します。「山間地は、国がいう大規模担い手農家も、まとまって転作する田んぼもない。ある町の課長は『こんなことをやれば、荒廃田んぼが増えるだけだ。できればビジョンづくりなんかやりたくない』というほどです。水田の多面的機能をと政府はいうが、傾斜地への直接支払いも削減するというし、まったく整合性がない」


国内生産基盤の衰退続く

農水省の調査から

 国民の九割以上が将来の食料供給に不安を感じ、自給率向上を望んでいますが、農村の生産基盤は長年の農業切り捨て策のなかで衰退をしています。BSE(牛海綿状脳症)や鳥インフルエンザでの食肉供給不安をみるように、問題がおきても生産回復は多くの費用と年月が必要です。

増える荒廃地

グラフ

 農林水産省がこのほどまとめた二〇〇三年耕地面積調査によると、同年七月十五日現在の耕地面積(あぜ部分も含む)は四百七十三万六千ヘクタールとなり、前年に比べて二万六千ヘクタール減少しました。

 減少面積のうち、草や木がはえ放題の荒廃農地となってしまった「耕作放棄地」は、一万四千三百三十ヘクタール。内訳は、水田が三千四百三十ヘクタール、畑が一万九百ヘクタール分です。これは、東京ドーム(約四・七ヘクタール)三千個分以上の農地が一年間で荒れ果てたことになる勘定です。

 そのほかの減少要因は工場・宅地への転用や道路など公共用地です。

 同調査では、この四年間が年四万三千ヘクタールから三万三千ヘクタールの減少テンポだったことと比べて「過去五年間ではもっとも少ないもの」と楽観視しています。

 しかし今後「米政策改革」が始まり、麦や大豆の作付け減と農地保全ができなくなることが予想され、耕作放棄地がいっそう増えることが心配されます。

 耕地は毎年減り続けています。食料自給率が54%あった一九七五年は、五百五十七万ヘクタールありました。(グラフ)

 自民・公明政府は、食料自給率を現在の40%から二〇一〇年までに45%まで引き上げる目標をたてています。この場合、「優良農地」として四百七十万ヘクタールは必要だと設定し、年に数回作付けするなど農地を有効利用するとしています。

 価格保障もなく生産条件をいっそう厳しくするなかで、この目標は絶望的で「絵にかいたモチ」といえます。

生産縮小を予測

 農水省がまとめた農業経営の展開についての意識・意向調査によると、過去五年間で農家所得が減ったと答えた人は半分近くおり、今後五年後には担い手が不足して地域の農業生産が縮小すると四割以上の人が考えています。

 過去五年間の農業経営の変化を聞くと、農家総所得は「かなり減少」が26・6%、「やや減少」が21・5%となり、約半数が減少。規模が大きい農家がより打撃を受けていました。これにたいし「増加」との答えは25・6%にとどまりました。

 農家は、付加価値が高い作物の作付けや生産方式に転換したり、直売方式や契約栽培を考えていますが、労力不足で規模拡大意欲をもつ農家は四人に一人(26・8%)にとどまっています。規模縮小か削減は一割、現状維持が六割でした。

 五年後の将来については、「担い手が不足し地域農業生産が縮小する」と答える人が四割いました。形態は、家族経営が三分の一と多く、法人経営体は一割、農作業請け負いも一割程度でした。

 農家の離農は四万戸あります(〇三年農業動態調査)。かなりの地域で担い手不足から国内農業生産が減りつづける思いを持っています。


「米改革」撤回運動広げる

稲作農家守り、自給率向上へ

農民連

写真
「大いにものを作って消費者と交流していこう」と話す高橋さん(左)=埼玉県春日部市

 農民連(農民運動全国連合会)は、国民の主食・米の生産を守り自給率を向上させるため、農家きりすての「米改革」撤回を求めています。二十四日には畜産対策とともに農水省と交渉します。

 大手米卸企業が商社などと結び価格操作や買い占め、米屋さんつぶしが出ていると分析。「何が入っているか分からない“複数原料米”やニセ表示が横行。価格高騰になれば米の消費離れがすすむ」という現状を警戒します。流通業者や消費者と「顔の見える流通関係」を築く“準産直米”活動をしています。

 埼玉県の東部農民センター(農民連加盟)の高橋利男さんは二十日、春日部市の農業後継者の原直樹さん(27)らと懇談、「農業、米つぶしに負けず、おいしく安全な米づくりをして中小業者・消費者と交流して、価格も安定供給していこう」と話し合いました。


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