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2021年7月28日(水)

主張

「黒い雨」上告断念

全ての被爆者救済一刻も早く

 広島への原爆投下直後に降った放射性物質を含む「黒い雨」による健康被害をめぐる訴訟で、菅義偉政権は国側敗訴の広島高裁判決について、上告を断念しました。菅首相は26日、原告84人に直ちに被爆者健康手帳を交付するとし、「同じような事情の方については、早急に救済を検討したい」と表明しました。原告・弁護団の長年のたたかいと、それを支える世論と運動が政府を動かしました。被害を矮小(わいしょう)化する国の姿勢を断罪し、被爆者を幅広く救済することを求めた司法判断の確定は画期的です。菅政権は、一刻も早く全ての被爆者の救済を進めるべきです。

運動と世論が切り開いた

 「黒い雨」被害の訴訟では、昨年7月の広島地裁判決が、国が指定した区域の外でも「黒い雨」の被害があったとして、原告全員を被爆者と認めました。今月14日の広島高裁判決は、地裁判決を支持し、国側の控訴を棄却しました。

 高裁判決では、被爆者の該当基準について「原爆の放射能により健康被害が生じることを否定できない」ことを立証すれば足りるとするなど地裁判決より踏み込んだ判断も示しました。

 地裁判決では、がんなど原爆の影響が考えられる疾病の発症を認定の条件にしていましたが、高裁判決は、発症がなくても被爆者と認めるとしました。「黒い雨」に直接打たれていなくても、空気中の放射性微粒子を吸うなどする内部被ばくによる健康被害の可能性にも言及しました。

 国の責任で戦争被害を救済するという趣旨の被爆者援護法を生かし、人道的な立場から広く被害を救済することを求めた重要な判決です。「科学的知見」「放射線起因性」を盾に、被害者の援護・救済の対象を狭く絞り込んできた歴代政府の被爆者行政の根本的転換を迫っています。原爆投下直後の不十分な調査を基に、被害実態と見合わない線引きで救済を拒んできた政府の道理の無さは明らかです。

 菅政権が上告を断念するのは当然です。ところが、菅首相は26日の記者会見で上告しないが、「政府として受け入れ難い部分がある」と主張しました。27日閣議決定した首相談話では、高裁判決にある、健康影響を科学的な線量推計によらず広く認めるなどの点は、これまでの援護制度の考え方と相いれないなどと従来の姿勢に固執しました。全面的な救済に背を向けることは許されません。

 国が指定した区域外で「黒い雨」の被害にあって存命している人は約1万3000人いると推定されます。高裁判決を全面的に受け入れ、司法判断に沿った被爆者救済の対策を早急に実行することが求められます。

残された時間はわずかだ

 広島での「黒い雨」被害の救済を求める運動は40年以上続いています。切実な声に逆らい続け、裁判でも敗訴した一審判決に従わず解決を長引かせてきたことを国は深く反省しなければなりません。

 原告のうち19人が死去しました。原爆投下から76年になる中で、被爆者の高齢化が進んでいます。広島県と同市は援護区域の拡大・見直しを求めています。長崎でも国の援護対象区域外で被害救済を求める訴訟が起きています。被爆者に残された時間はわずかです。唯一の戦争被爆国の政府の責任が厳しく問われます。


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