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2021年5月11日(火)

主張

リニア工事費膨張

無謀な巨大国家事業は中止を

 リニア中央新幹線の品川―名古屋間の工事費が約1・5兆円増えて7兆400億円になることをJR東海が発表しました。難工事で費用の膨張が避けられないと警告されてきた通りの事態です。すでに財政投融資3兆円の公的資金が投じられています。工事費が今後も膨らむ可能性は大きく、大阪までの延伸を含めた総工事費が現計画の9兆円にとどまらないことは確実です。これが国民の負担となるリスクは高まっています。将来に禍根を残さぬよう無謀な事業の中止を決断すべきです。

さらに費用増加のおそれ

 リニア建設は採算、自然環境への影響、安全、必要性をめぐる多くの疑問、反対意見を無視して安倍晋三前政権が国家プロジェクトに位置づけた事業です。

 JR東海の発表(4月27日)によると、工事費増加の内訳は品川駅、名古屋駅ターミナル工事の「地質の不確実性」による難工事への対応約5000億円、地震対策約6000億円、工事で発生した土の活用先の確保約3000億円です。営業活動で得た資金を中心に、不足分は借金でまかなうといいます。具体的な説明がなく、公的資金に頼ろうとしているのではないかとの疑問は拭えません。

 旅客需要の低迷が長期間続くと予想されることを考えても、工事費の増額分を手元資金ですべて調達できるとは考えられません。

 東海道新幹線を最大の収益源とするJR東海の事業はコロナ禍による乗客減で大きく落ち込んでいます。今年3月まで1年間の同社グループの決算は初めて最終赤字となりました。売り上げが55%減ったことが響きました。テレワークやビデオ会議が普及したことで、ビジネス客が多い東海道新幹線の旅客需要が元通り回復することは疑問視されています。

 そもそも工事そのものに見通しがありません。リニアは都市部の地下40メートルより深い「大深度」にトンネルを掘ります。この工法による東京外環道の工事では東京都調布市の住宅街で地表の陥没事故が起き、工事が止まっています。大深度にリニアのトンネルを通す首都圏、中部圏で陥没が起きれば大惨事になりかねません。

 地下工事が大井川水系の減水を招く問題では静岡県をはじめ地元自治体が納得する対策を示せず、着工できずにいます。

 これらの問題に対策を講じるとなれば工事費はさらに膨らみます。2027年に予定している東京―名古屋間の開業はJR東海自身が「難しい」と認めています。

 災害に備えて東海道新幹線とともに「大動脈の二重系」をつくるという建設理由も疑問だらけです。乗客輸送を主とするリニアは災害時の物資輸送に適しません。

一極集中の交通見直せ

 大都市への一極集中を促進する従来の交通体系はコロナ禍によって見直しを迫られています。東京と名古屋、大阪を結ぶもう1本の高速交通をつくる必要がないことは明らかです。採算がとれないリニアにこれ以上公的資金を投じることも許されません。

 JR東海の自己資金で建設する方針を転換して公的資金を投入したのは安倍前政権です。それを引き継いだのが菅義偉政権です。次の世代に“負の遺産”を残すことのないよう、事業から撤退することは国の責任です。


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