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2021年4月4日(日)

きょうの潮流

 人情味あふれる役が得意でした。飾らない気さくさ。不器用な優しさ。人間的な弱さ…。みずからも庶民派を自負していました。目じりを下げ、照れたようなあの笑顔で▼88歳で亡くなった俳優の田中邦衛さん。代表作となったドラマ「北の国から」の黒板五郎は、まさにうってつけの役でした。時代に流されず寡黙でいちずな人物を好演。しかし本人は「ぼくは正反対で風来坊」とよく口にしていました▼岐阜で100年の歴史をもつ美濃焼窯元の家に生まれ、代用教員を務めた後、役者をめざして上京。俳優座の養成所で貧乏くらしと脇役ばかりが続きましたが、千田是也さんに抜てきされたことも。下積みの苦労がその後の俳優人生を支えました▼熱心な役づくりで料理人を演じたときにはホテルのコック長に弟子入り。山田洋次監督の映画「学校」に出演するため夜間中学を見学した際には、生徒が「花」という字を鉛筆が折れんばかりに書く姿にふれ「学ぶとはこういうものかと衝撃を受けた」ことも▼尊敬する役者には笠智衆さんの名を。「自分を強烈に主張することなく、静かで温かい」と手本に。人気が出てからも周りへの感謝を忘れず、スタッフや共演者と親身に接していたといいます▼終戦60年企画のドラマ「象列車がやってきた」では、戦時中の動物園で象を守り続けたという飼育員の役も。訃報に際し、山田監督は「善良が服を着て歩いているような人だった」と。多くの人から愛され、人を信じることが伝わる役者でした。


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