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2021年2月22日(月)

危険だらけの芸能現場

労災保険加入OKに

 今年4月から、俳優やフリーランスの芸能従事者やアニメーション制作従事者らの、労働者災害補償保険(労災)への特別加入が可能になります。華やかな印象がある一方、突発的な事故の危険や、不規則で長い拘束時間など過酷な状況が多い芸能の現場。しかし芸能従事者らは労災保険が適用されない場合がほとんどでした。(北野ひろみ)


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(写真)撮影風景(写真はイメージです)

 労災保険は、企業・団体に雇われて働く労働者の仕事、通勤によるけがや病気に対して、治療費や休業補償を給付する制度です。保険料は企業が全額負担します。個人事業主やフリーランスの人は労働者とみなされず、労災の対象ではありません。ただし、建設業や漁業などの「一人親方」や、労働者に準じて保護する必要がある「特定作業従事者」には、特別加入が認められています(保険料は自己負担)。

 今回「特定作業従事者」として適用が拡大されたのが、俳優やダンサーなどの芸能実演家や、演出家や舞台照明などのスタッフ、アニメーション制作従事者です。

 労災の適用拡大へ向けて実態調査や政府要請を行ってきた、俳優で日本俳優連合(日俳連)の森崎めぐみ理事は「芸能の仕事は事故の発生率が高く、ケガに遭う機会も多いのに法的に保護される仕組みがありません。仕事ができなくなれば貯金を崩したり、最悪の場合は復帰できないこともあります」と話します。

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(写真)森崎めぐみさん

死亡事故も

 スタジオ撮影での大きなセットの倒壊や、天井からつるされた照明器具の落下で、俳優やスタッフがケガをする事故が再三起きています。過去には、死亡事故になったケースも。

 日俳連が組合員とフリーランスの芸能従事者に行った安全衛生に関する実態調査(別表)を踏まえて、森崎さんは「残念ながら芸能の現場は労働安全衛生という観点からはほど遠い状況」だと言います。

 俳優の場合、芸能事務所に所属していてもほとんどがマネジメント契約などで、雇用関係がある労働者とはみなされません。現場にいるスタッフの雇用形態も、放送局の職員や制作会社に雇われている人、作品ごとに契約をするフリーランスのスタッフなどさまざまです。現場で監督や演出家から同様に指示をうけて動いても、フリーランスの俳優はケガや病気になっても公的に補償されることはほとんどありません。

 現場の実態を踏まえ、俳優だけでなく裏方と呼ばれる芸能制作従事者も合わせて訴えを広めたことで、今回の適用につながりました。

基本的人権

 森崎さんは、「舞台や映画、ドラマなどは産業として成り立っている。最低限の保障や、基本的人権も含めて、人として守ってもらえるルールをつくっていきたい」と意気込みを語ります。

 夢や希望を生む産業である一方、コロナ禍では「不要不急」だと言われたことに傷ついた芸能従事者は多い。「特別加入ができるようになることで、やっと社会とつながれる。労働の実態が明らかになっていくことで、多くの人が支えてきた産業だと伝わってほしいですね」(森崎さん)

「フリーランス」世界は

 政府は、芸能従事者にかかわらず、フリーランスなど「雇用によらない働き方」の拡大を進めようとしています。働き手は労働法制の保護を受けず、企業側は雇用責任を一切問われない、“使い捨て”ともいえる働き方です。

 一方、世界的にはコロナ禍であっても、文化・芸術、芸能に携わるフリーランスの人たちを保護する動きが顕著です。日俳連が所属するFIA国際俳優連合は昨年11月、日本のフリーランス芸能従事者への支援(傷病手当金給付や賃金未払い確保制度等)を行うよう求める要望書を日本政府宛てに提出しています。

日俳連実態調査(アンケートから抜粋)

〇安全に関して不安に思ったことがある…86%

〇仕事中にハラスメントを受けたことがある…54.5%

更衣室等

・床が汚くて衣装が汚れる。座る場所がない

・(街中で)ロケバスの中のカーテンの仕切りだけで着替えるのが恥ずかしかった

トイレ

・山の中のロケで、間に合わなかった

・行くタイミングがなく我慢するときがある

・男女共通トイレで、生理用品を捨てる所がなかった

・現場を離れられずトイレを我慢し、ぼうこう炎になった

食事

・ながら食べに慣れてしまっている

・移動車中での食事が多い

・現場支給の食事は栄養バランスが悪い

その他

・睡眠不足で何度も作業をさせられ、貧血で倒れた

・昼夜逆転するときは睡眠薬を飲んで強制的に寝る


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