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2020年10月9日(金)

福島の原子力災害伝承館

語れぬ語り部

マニュアルに“特定の団体批判禁止”

 福島県に開館した「東日本大震災・原子力災害伝承館」(双葉町)が、館内の語り部へ「特定の団体」の批判を禁止するマニュアルを作成し問題になっています。語り部を務めるのは津波や東京電力福島第1原発事故の被害者たちです。「国や東電に触れずに真実が語れるのか」と批判が高まっています。


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(写真)「特定の団体」への批判をしないよう求める「語り部活動マニュアル」

 伝承館は「原子力災害と復興の記録や教訓の『未来への継承』」などを目的に、9月20日にオープンしたばかりです。総工費53億円は国が全額実費で負担。管理・運営は指定管理者である公益財団法人「福島イノベーション・コースト構想推進機構」です。国の職員も出向しています。

 日本共産党の岩渕友参院議員が県から入手した「語り部活動マニュアル」では、語り部に「自覚をもって口演」「笑顔で対応」することなどのほかに、「特定の団体、個人または他施設への批判・誹謗(ひぼう)中傷」は口演内容に含めないよう求めています。語り部は事前に提出した原稿を基に選定するとしています。

 伝承館を所管する県生涯学習課の渡辺賢一課長は「特定の団体とは何か」という問いに「一般的、常識的な範囲でご理解いただく」とくり返すばかり。

党は撤回を要求

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(写真)復興庁の担当者(左)に聞き取りをする岩渕議員(右)=1日、国会内

 日本共産党県議団の宮本しづえ議員は9月29日の県議会で「特定の団体」について「国も東電も含まれるというふうに解釈される」と指摘し、マニュアルの撤回を要求。県文化スポーツ局長は「一般的、常識的な範囲内で活動マニュアルを整理したもの」と答弁。明確な解釈を避け、マニュアルの撤回もしない考えを示しました。

 復興庁原子力災害復興班の上村昌博参事官は伝承館問題で説明を求めた岩渕氏に対し、「(語り部が)本来伝えたいものが伝えられないとしたら不適切」としながらも「県の施設であり国は直接関与していない」といいます。

 他県の伝承館や資料館ではどうなのか。

 熊本県の水俣市立水俣病資料館は「語り部は患者と家族です。口演内容にマニュアルは設けていない。その方の思ったことを話していただく」と説明。水俣病の加害企業「チッソ」の名を出し批判をする語り部もいるといいます。

姿勢が問われる

 岩渕氏は、マニュアルについて「語り部の方が萎縮するようなことになれば、被害の実相が伝わらなくなる。見直すべきです」と批判します。

 原発事故ですべてを奪われ、今も多くの人が避難生活を余儀なくされています。自宅に戻った人も事故前の生活と生業を取り戻せていません。

 岩渕氏はいいます。「加害者の責任を果たさない国と東京電力に怒りが広がっています。そんな被害者に国や東電を抜きに何を語れというのか。二度と事故を起こさないために何を伝承するのか。国と県の姿勢が問われています」


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