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2020年5月23日(土)

主張

種苗法改定案

農・食のあり方変質させる危険

 安倍晋三政権が今国会に提出した種苗法改定案に農業者・市民から異論が相次いでいます。改定案には、農と食のあり方を大きく変質させる危険があるためです。新型コロナ対策に集中すべき時に国民の疑念に耳を傾けず、農業者の声も聴かないまま短時間の審議で強行するのは許されません。

農業者の権利を脅かす

 種苗法は、農作物の新しい品種を開発した人や企業に「育成者権」を認め、著作権と同じく権利を保護しています。同時に、農業者が収穫物の一部を種苗として使う自家増殖については「育成者権が及ばない範囲」(21条)で「原則自由」としてきました。

 改定案は、この条項を削除し、自家増殖を一律禁止にするというものです。禁止対象になる「登録品種」を農家が栽培する場合、種や苗を全て購入するか、一定の許諾料を払って自家増殖するかを強いられることになります。負担増になることは避けられません。

 人類は種の選抜や改良などを繰り返し、食料生産を発展させてきました。その営みを担ってきたのが農業者です。公的機関や企業による育種が広がってきた最近でも、地域の土壌や気象にあった多様な品種の定着にとって農業者の現場の取り組みが欠かせません。

 自家増殖の禁止は、農業者を種苗の単なる利用者、消費者としか見ず、こうした長年の農業者の大事な営みを否定するものです。

 国際社会は、「育成者権」の強化を目的とした条約でも農業者の自家増殖を認めています。食料や農業の植物遺伝資源に関する国際条約(2001年)や国連「農民の権利宣言」(18年)は、地域の伝統的な品種の保存・利用や自家増殖は農民の権利と定めています。改定案はこの流れに逆行します。

 政府は、自家増殖禁止は、優良品種の海外流出防止のためといいます。しかし、自家増殖を規制しても海外持ち出しを物理的に止めることはできません。農水省が認めるように、海外で品種登録を行うことが唯一の方法です。

 改定の背景には、安倍政権の企業利益第一の「成長戦略」に基づく農業政策があります。17年の農業競争力強化支援法は、「都道府県が有する種苗の生産に関する知見を民間事業者に提供する」ことを求めました。また、都道府県の農業試験場等の根拠法だった主要農作物種子法を「民間企業の参入を阻んでいる」と廃止しました。政府は民間に海外企業が含まれることも否定しません。農林水産省は17年の知的財産戦略本部で「稲、麦の品種育成に対する民間参入が期待されるが、自家増殖が障害」などと問題視してきました。

 一連の流れをみれば、改定の狙いが、優良な種子を安価で提供する公的事業を縮小させ、企業の利益のための私的品種開発に比重を移すことにあるのは明らかです。

消費者・国民にも影響

 多国籍種子企業による植物遺伝資源の囲い込みや種子開発競争が世界で激化し、農業者がその支配下に置かれ、生物多様性や食の安全、食料主権が脅かされる事態も広がっています。種を制するものは世界を制するといわれます。種苗法改定は農業者だけでなく消費者・国民にも影響します。国民的議論をせず、コロナのどさくさの中での審議は大問題です。不要不急の改定は断念すべきです。


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