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2020年5月9日(土)

新型コロナが問う日本と世界

対応不能な新自由主義

神戸女学院大学名誉教授・思想家 内田樹さん

 新型コロナの感染拡大は何を問いかけているのか。思想家の内田樹(たつる)さん(神戸女学院大学名誉教授)に聞きました。(渡辺健)


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 今回の新型コロナ感染症対策をみて、新自由主義では危機管理ができないことがはっきりしました。

日米同盟に慣れ

 新自由主義の基本は「選択と集中」です。あらゆる社会活動を生産性、費用対効果、採算性などの数値的基準で格付けし、格付け上位者に資源を集中し、格付け下位は切り捨てる。路頭に迷うのは当人の自己責任だという考え方です。

 ただし、これは「平時の思想」です。国家の基盤が安定しているなら、その上でゼロサム的な競争ができる。でも、危機的状況では、その基盤そのものが揺らぐ。国民を格付けしたり、競争させたりしている時ではない。しかし、安倍政権には今が「非常時」であるという危機感がない。

 韓国や台湾と比べて異様に危機感がないのは、日米同盟に慣れ過ぎたからだと思います。安倍政権にはもう対米自立戦略がありません。自力で自前の国家戦略を立てることを断念したので、安全保障でもエネルギーでも食糧でも、国の根幹にかかわる政策については米国の指示に従う。わが国の国土や国富や国民の健康や安全をどう守るかについて自分の頭で考える習慣を失って久しい。

責任を“丸投げ”

 だから、他の国々の政府が危機に際して、「非常時モード」に切り替えて、国民を守るためにさまざまな手だてを講じている時にも、日本政府だけは感染拡大に備えず、ぼんやり五輪開催を夢見ていた。その後も感染抑止のために効果的な措置をとらず、自治体と市民に責任を丸投げしている。すべて状況を甘く見た危機意識の欠如がもたらしたものです。

グローバル化 見直し必要

 感染症対策は新自由主義と相性がよくありません。感染症は何年に一度しか来ない。SARS(重症急性呼吸器症候群)は世界に拡大しましたが、なぜか日本だけは感染が広がらなかった。平時においては、感染症のための医療器材や病床は「医療費の無駄」に見える。ですから、医療資源の効率的活用や病床稼働率の向上を優先させれば、感染症関連予算は真っ先に削減される。そして、ある日不意に新感染症が広がり、人が死に始めると「どうして感染症用の備蓄がないんだ」と騒ぎ出す。でも、それは「無駄だ」という理由で削減したものなんです。

 コロナ後の世界がどう変わるか。確かなのはグローバル資本主義が大幅な修正を求められるということです。これまでは生産拠点を人件費の安い国に移し、海外から部品を調達し、海外をメインの市場にしてきたグローバル企業が「勝ち組」でしたけれど、そういう企業の思いがけない弱さが露呈した。必要なものを国内で調達でき、国内市場で商品がはける「内向き」の企業の方がこの種の危機には強いということがわかった。だから、米国は必須な医療品を国内生産に切り替える方向に舵(かじ)を切りました。危機に際しては「必要なものが金を出しても買えない」ということがあるということに気付いたのです。医療品だけでなく、エネルギーも食糧も、これから諸国はこぞって「自給自足」体制の整備に取りかかるでしょう。

 日本は必要なものがほとんど自給できない国です。にもかかわらず、世界の大勢に逆行して、さらなるグローバル化を進めようとしている。それがどれくらいのリスクを冒すことか。この機会に慎重に点検すべきだと思います。


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