日本共産党

2003年11月10日(月)「しんぶん赤旗」

日航706便

事故調報告の証拠採用

再発防止の妨げに


 三重・志摩半島上空で九七年、日航706便(MD11型機)が乱高下し、乗客・乗員十二人が死傷した事故で、機長を業務上過失致死傷罪に問えるかどうかを審理している名古屋地裁は先ほど、航空・鉄道事故調査委員会が作成した事故報告書を検察側申請に基づき「鑑定書」として採用しました。これに対し、パイロット、航空機関士で構成する日本乗員組合連絡会議などは「世界中の航空関係者が日本で起きた航空事故調査で本当のことをしゃべらなくなるだろう」と批判、今後の事故調査への影響が懸念されています。 (米田 憲司記者)

原因より犯人捜しの恐れ
「真実述べなくなる」の声

 十月十五日の公判では、初めて航空・鉄道事故調査委員会の加藤晋委員(65)が検察側証人として出廷。事故調報告書について「事故原因を正確に記載したもの」と述べるとともに、報告書の証拠採用については「使う人の判断だ」とし、明言を避けました。

警察が捜査優先

 検察庁が報告書を事故原因の証拠として位置づけているのは、七二年に警察庁と旧運輸省が結んだ「覚書」で、「捜査機関から航空事故の原因について鑑定依頼があった場合、事故調は支障のない限り応じる」としているからです。この「覚書」によって、航空事故の原因よりも「だれが事故を起こしたのか」という犯人捜しが優先され、事実上、事故調自身が捜査機関の一部門化してしまっています。

 航空事故に詳しい評論家は「事故調査報告書は、原因と考えられるすべての可能性を推定して収れんさせたもので、きちんとした証拠にもとづく刑事裁判の証拠とは異なる」と指摘します。

 日本も批准する国際民間航空条約(ICAO)第13付属書には「事故調査の唯一の目的は将来の事故防止で、罪や責任を課すためではない」と規定。入手したすべての記録や情報を、調査以外の目的で使用することを禁じています。

世界中に波紋

 米国では国家安全運輸委員会(NTSB)が航空事故調査の原因究明にあたっています。飲酒や薬物使用などの明らかな脱法行為を除き、刑事責任を追及されることはありません。テロやハイジャックは連邦捜査局(FBI)が担当し、「事故調査と犯罪捜査」を明確に区分しています。

 日本航空システムの兼子勲最高経営責任者は、公判後の会見で「報告書を刑事事件の証拠とするには疑義を感じている。事故原因の究明や再発防止を阻害するようなことは困る」と述べ、懸念を表明しました。

 日本の事故対応は、世界中に波紋を広げています。十月に東京で開かれた「航空事故と刑事捜査シンポジウム」では、国際定期航空操縦士協会のポール・マッカシー副会長が「最も重要なのは再発防止だ。それを優先できない国は発展途上国といわざるをえない」と厳しく批判。「日本での事故ではパイロットは真実をしゃべらなくなる。アメリカには、そう教育している会社も実在する。刑事責任を問われるからだ」と述べました。実際、オーストラリア・カンタス航空も成田離陸後の揺れで負傷者がでましたが、そのまま自国まで飛行しています。

事故原因は複雑

 今日の航空事故の原因は、メーカーの機体設計、ハイテク機器、整備、操縦、管制、気候等さまざまな原因が複雑に絡みあっています。明確なミスや故意による事故以外、乗員の責任を問うのは正しくありません。

 この裁判を契機に、航空関係者が事故やトラブルの調査協力を渋り、再発防止の妨げとなれば、世界の航空安全にとって大きなマイナスにならざるを得ないでしょう。


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