2003年6月16日(月)「しんぶん赤旗」
法人化に伴い、国立大学の教職員は非公務員とされ、教育公務員特例法の適用からはずれます。
大学の教員が学問や思想によって差別されることのないよう、特例法で「教授会自治」が定められてきました。この精神は私立大学の教員にも適用されてきました。この法的根拠が失われることで、学問の自由を保障してきた大学の自治が空洞化する恐れがあります。
参考人質疑で元阪大事務局長の糟谷正彦氏は、「これまで、最先端の学問分野を考慮した教員人事が教授会自治のもと適切に行われてきた。大学をもっと信頼すべきだ」と指摘しました。
一律学費も崩壊
大学の設置者が国から法人にかわることで国の財政責任が後退し、大学の財政基盤が不安定になることが懸念されます。
法人化後の授業料は各大学法人が定めることとなり、全国どこでも、どの学部でも一律だった学費の原則は崩れます。
政府はこれまで、国立大学の付属病院整備のため財政投融資資金から借り入れし、毎年償還してきました。法人化後はこの借入金を、各大学が付属病院の収入から償還(返済)しなければなりません。規模は全国で一兆三千億円です。九百四十一億円の債務を負うことになる東大の佐々木毅総長も、参考人質疑で「ちょっと見ただけでも気持ちのいいものではない」と発言しました。
国立大学が法人に移行すると、労働安全衛生法が適用されます。現状では「危険な薬品のそばで論文執筆や文献調査が行われている」など、違法状態となる施設が多数あります。
この状態を改善することは緊急の課題なのに、文科省の対応はどうなのか――。文科省は五月二十八日、違法状態の改善に必要な予算額は三百六億円との調査を発表しましたが、これは「机上の額」にすぎないことも明らかになりました。日本共産党の林紀子議員の調査では、東京大学は「これからコンサルタントに診断を委託し、予算額を出す」としています。京都大学も、労安法に適合させるための施設改善に数年はかかると見込んでいるのです。
発効と同時に大量の違法状態をつくり出すこと自体、この法案の大きな欠陥です。
国会審議を無視
五日の委員会で、すでに今年度予算に法人移行のための費用が計上され、新会計システム導入の研究が進められていることが発覚しました。自由党の西岡武夫議員が「法案は当然通るという態度であり、国会無視では」と質問したのにたいし、遠山文科相は「昨年六月、国立大学の法人化は平成十六年(二〇〇四年)をめどに行うと閣議決定された。準備を進めるのは当然」と述べました。
国会審議の上に閣議決定をおく発言だと抗議されて、審議は中断。遠山文科相が発言を撤回、陳謝する事態となりました。
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法案の廃案、慎重審議を求める声は、全国の大学関係者や広範な国民から澎湃(ほうはい)とわき起こっています。これだけの問題点がある法案を、このまま通すわけにはいきません。
(坂井希記者)