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2019年12月2日(月)

政治考

日韓「慰安婦」合意 見直しは「約束違反」か

秘密協議 深刻な中身

 安倍政権は、韓国大法院の徴用工判決に加え、文在寅(ムン・ジェイン)政権が2015年の日韓「慰安婦」合意に基づいて設立された「和解・癒やし財団」の解散を進める(昨年11月21日)としたことで「韓国は約束を守らない国」と非難し、貿易制限措置を正当化してきました。「慰安婦」合意の見直しは「約束違反」なのか―。「和解・癒やし財団」の解散に至る経緯を考えます。


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(写真)ソウルの日本大使館前での水曜デモで、「慰安婦」問題をめぐる日韓合意に抗議する市民=15年12月30日(遠藤誠二撮影)

 15年12月28日、岸田文雄外相(当時)と韓国・朴槿恵(パク・クネ)政権の尹炳世(ユン・ビョンセ)外相との間で、日韓「慰安婦」合意は交わされました。

 注目されたのは、安倍晋三首相が「総理大臣として」「心からおわびと反省の気持ちを表明する」とし、元「慰安婦」支援の財団設立に「日本政府の予算で一括して拠出」するとしたことでした。そのうえで「(慰安婦)問題の最終的かつ不可逆的解決」を確認しました。

 政界関係者の一人は「安倍首相は、口が裂けても慰安婦問題で『おわび』など言いたくないし、『おわび』の性格を持つ政府資金の拠出は1円たりともしたくないはず。『合意』を不思議に感じた」と当時を振り返ります。

 元日本政府高官の一人は「米オバマ政権は対中戦略上、日韓の対立に神経をとがらせていた。1965年の日韓基本条約から50年の節目の年に、何とか『解決』のめどを見つけようとしていた」と述べます。

真剣さに疑問

 ところが安倍首相は、「合意」からひと月もたたない年明けの国会で「性奴隷といった事実はない」「軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述は見当たらなかった」(16年1月18日の参院予算委員会)と、日本軍「慰安婦」問題の核心を否定する発言をくり返しました。

 また、首相自身が元「慰安婦」におわびの手紙を直接送る可能性を問われると「毛頭考えていない」と発言(同年10月3日の衆院予算委員会)。直接、「おわび」を表明することを固く拒否したのです。「合意」における、おわびの真剣さが疑われました。

文政権が検証

 決定的転機が訪れたのは17年5月に文在寅政権が誕生してからです。文政権は、朴槿恵政権下の「慰安婦」合意の検証に着手。朴政権が倒れ、文政権が誕生した大統領選挙では「文在寅候補だけでなく、保守系も含めすべての候補が、『慰安婦合意の検証』を公約に掲げていた」(韓国メディア関係者)といいます。

 同年12月28日、韓国外務省・作業部会は検証結果の報告書を公表しました。

 報告書は、日韓「慰安婦」合意に、「非公開部分」があり「ハイレベル協議において決定された」と明記。その内容は極めて深刻でした。

日本側「性奴隷の言葉使うな」

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(写真)ベルリンのブランデンブルク門前で開かれた日本軍「慰安婦」問題の解決を訴える集会で、手作りの「少女像」と並んで座り連帯を表す女性=2018年8月15日(伊藤寿庸撮影)

 非公開協議を担当したのは、日本側は谷内正太郎国家安全保障局長、韓国側は李丙琪(イ・ビョンギ)韓国大統領府秘書室長でした。

 秘密協議における日本側の要求は以下の3点。(1)「今回の発表により慰安婦問題は最終的かつ不可逆的に解決されるので、挺対協(韓国挺身隊問題対策協議会)などの各種団体が不満を表明した場合であっても、韓国政府はそれに同調せず、説得していただきたい。在韓国大使館前の少女像をどのように移転するか」(2)「第三国における慰安婦関係の像・碑の設置については…適切ではない」(3)「韓国政府が今後、『性奴隷』という言葉は使用しないでほしい」

関与の余地残す

 韓国側は(1)について「関連団体との協議を行う等を通じて、適切に解決されるよう努力する」とし、(2)については「このような動きを支援することなく、韓日関係が健全に発展するよう努力する」と答え、いずれも事実上受け入れました。

 (3)に関し、「韓国側は、性奴隷が国際的に通用する用語であることから反対していたが、政府が使用する公式名称は『日本軍慰安婦被害者問題』だけであると確認した」としています。

 報告書は、「韓国政府が、少女像を移転したり、第三国で慰安婦の碑を設置できないようにしたり、『性奴隷(sexual slavery)』という表現を使わないことを約束したものでないが、日本側がこのような問題に関与できる余地を残した」としています。

 「合意」から間もない年明けの国会で、安倍晋三首相が「性奴隷といった事実はない」と言い放ったことは、「非公開」合意が前提であり、「合意」そのものに歴史偽造の狙いが込められていました。

 文在寅政権による「慰安婦」合意検証の作業部会の責任者だった呉泰奎(オ・テギュ)氏は、雑誌『世界』2月号のインタビューで「他国の市民運動の活動を抑制させるような要請自体があり得ないことですし、それを(韓国政府が)受諾したということも信じがたい」と指摘。「今回の日韓合意は、被害国に対して何らかの措置を要求し、それを合意の条件にしたという点では、むしろ以前より後退した」と述べています。

 検証の報告書は、「合意」について「被害者中心、国民中心ではなく、政府中心で合意した」と認定。文在寅大統領は、報告書発表とともに、「非公開協議の存在は国民に大きな失望を与えた」「この合意では慰安婦問題を解決できない」とし、「日本との正常な外交関係を回復していく」と表明しました。他方、文政権は「合意」について「破棄という言葉を使うのは適切ではない」としました。

 外務省元国際情報局長の孫崎享氏は、「歴史問題や人権問題と深い関連を持つ事柄を、一片の政治合意で『最終的かつ不可逆的に解決』すること自体が無理だ。長期に国民を縛る決定なら、国会承認を通す条約にすべきだ」と指摘。また、韓国政府が「秘密協議」を暴露したことについて「機微に触れる部分は秘密にする必要がある。韓国側が自分の都合で蒸し返した」などと“批判”する論調に対し孫崎氏は、「秘密協議の存在は、韓国国民にとって慰安婦合意に重要な付帯条件があったことになる。それを含めなければ合意全体を評価できない以上、公表が必要になる。もともと民主的プロセスを通すべき内容だ」とのべます。

交渉の検証必要

 韓国政府にも責任があります。ただ、検証内容をふまえ、さらなる話し合いが必要だという文政権の姿勢を「約束違反」と言えるのでしょうか。

 「性奴隷」という事実の存在を認めない安倍政権自身の認識と責任が問われているのです。人権の名のもとに、交渉過程の深い検証が必要です。(中祖寅一)


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