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2019年10月21日(月)

「65歳超えて働きたい」8割?

所信表明で首相は言うが

元調査では55% 背景に老後不安

 「65歳を超えて働きたい。8割の方がそう願っている」。安倍晋三首相は所信表明演説(4日)でこう語りました。圧倒的多数の人が高齢期になっても意欲的に働きたがっているかのような言い方です。実際はどうなのでしょうか。

高い就業意欲?

 「8割」の根拠となっているのが、2019年版「高齢社会白書」に掲載されている「あなたは、何歳頃まで収入を伴う仕事をしたいですか」と題するグラフです。「70歳くらいまで」(21・9%)から「働けるうちはいつまでも」(42・0%)という回答まで「約8割が高齢期にも高い就業意欲を持っている様子がうかがえる」と記されています。

 ところが内閣府によると、このグラフで使っている数字は、60歳以上の男女を対象とした元の調査の回答者3893人のうち、「現在仕事をしている者」1356人のみに絞った「再集計」だといいます。

 元になった「高齢者の日常生活に関する意識調査結果」(14年度)をみると、60歳以上の男女の仕事をしていない人も含めた数値が記載されています。そこでは、首相が「65歳を超えて働きたい」とみなした回答を選んだ人は、55・3%にすぎません。

 そもそも日本の高齢者の「就業意欲」の背景には老後の生活への不安があります。「国民生活基礎調査」では、高齢者世帯の55・1%が生活について「苦しい」と回答しています。

 就労継続の希望理由の国際比較では、日本は「収入がほしいから」が49%で最多。ドイツとスウェーデンでは「仕事が面白いから」がトップです。(内閣府「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」)

 一方で、日本では60歳を過ぎると雇用待遇が一気に悪化します。男性の非正規労働者の割合は55~59歳の12%が60~64歳では50・5%に、65歳以上では7割超に上昇します。独立行政法人「労働政策研究・研修機構」の調査によれば、継続雇用者の60歳直前の賃金を100とした場合の61歳時点の賃金水準の平均値は73・5。66歳時点では65歳直前の87・3とさらに低下します。

不安定雇用拡大

 政府自身が年金を削り、医療・介護でも負担を増やし、不安定・低賃金でもできるだけ働かざるをえない状況に高齢者を追い込んでいます。

 首相が法制化を目指す「70歳までの就業機会の確保」も、雇用契約を結ばない働き方の選択肢まで含めるなど、不安定雇用をいっそう広げる危険性があります。

 政府は「年金の受給開始年齢を自分で選択できる範囲の拡大」も打ち出していますが、その後に狙われるのは現在65歳の「支給開始年齢」(受給開始の標準年齢)の引き上げです。現・環境相の小泉進次郎衆院議員が中心となった自民党小委員会はすでに16年の段階で、支給開始年齢の引き上げについての議論を「ただちに開始すべき」だとの提言を発表しています。(藤原直)


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