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2019年10月6日(日)

大学入試に民間英語試験

受験生「中止して」

当事者不在/公平欠く/負担増

 大学入試制度が大きく揺らいでいます。2020年度から始まる、大学入学共通テストで導入される民間英語試験の“構造的欠陥”が、次々と露呈しているからです。民間試験は来年4月からスタートしますが、開催日程や場所、各大学が試験をどう活用するかも不明のまま。民間試験が導入される年に受験生となる高校2年生からは、怒りの声が上がっています。(石黒みずほ、佐久間亮、染矢ゆう子、堤由紀子)


表:民間英語試験導入の主な懸念事項

 「この時期になって、これだけ問題が指摘されている。入試の体をなしていない」

 東京都内の高校に通う宮崎康一さん(高校生は全て仮名)は、こうあきれます。憤りの根底には、高校生の進路を大きく左右する大学入試改革が、当事者不在で進められ、情報もほとんど出てこないことがあります。

 民間試験は、受験料が2万5千円を超えるものもあります。

 都内の別の高校に通う清川正さんは「テキスト代や対策講座にもお金がかかる。自分の家は経済的に余裕があるわけではなく、テキストは友人に譲ってもらった。そうした費用を平気で家庭に負担させようとする行政が、許せない」と語ります。

 試験会場は都市に偏るため、地方の生徒に交通費や宿泊費が重くのしかかります。

 鹿児島県北部の高校に通う前畑和子さんは「試験で博多や鹿児島市に行くとなると、負担が増える」と不安を募らせます。大学入試改革についても、学校からはなんの説明もないといい、「試験対策をどう進めればいいのか」と困惑します。

 文部科学省を招き、9月27日と10月1日に国会内で開かれた野党合同ヒアリング。宮崎さんと清川さんは、家庭の経済力や居住地で格差が生まれる問題を指摘し、民間試験導入の延期・中止を求めました。文科省は「懸念を一つ一つ解消する」との答えに終始。来年度からの実施に固執しました。

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(写真)文科省前で「入試改革今すぐ中止を」と声をあげる人たち=4日

 2人は、民間試験導入の狙いにも疑問を呈します。英語の4技能(読む、書く、聞く、話す)を総合的に評価するための大学入試への民間試験導入は、学校教育での「グローバル人材」の育成を求める財界が“震源”です。

 清川さんは「教育は国家百年の計といわれるのに、実利的、目先のことに捉われている。財界が英語のできる人材を求めているからといって、その通りに動くのはおかしい」と指摘。ロンドンで暮らしていたこともある宮崎さんは「正直、民間試験が導入されれば対応する覚悟はある」としたうえで、次のように語りました。

 「ここでおかしな実例をつくれば、今後数十年の若者の人生を大きく左右することになる。自分一人が対応できればいい、という問題ではないんです」

予備校講師も憤り

異なる7検定 使うのは無理

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(写真)高校生が参加した野党合同ヒアリング=9月27日、国会内

 民間英語試験導入について文科省は、現在の入試センター英語試験の「読む」「聞く」に加え、「書く」「話す」を含む4技能を総合的に評価するため、と説明しています。しかし、その仕組みは極めて複雑です。

 導入されるのは、目的や性格の異なる7種類の資格・検定試験。英検のように、中学・高校の授業に対応した出題傾向を持つ試験がある一方、TOEFL(トイフル)のように、留学や海外での就職に対応した難易度が高い試験も含まれます。

 民間試験と同時に、大学入学共通テストでも英語の試験が行われます。現在の高校2年生は、来年4~12月の間にいずれかの民間試験を2回受け、1月に共通テストの英語試験を受けることになります。

 民間試験の受験回数や成績は大学入試センターが発行する「共通ID」で管理され、成績はセンターを通じて出願大学に送られます。

 民間試験の成績は英語の国際共通指数「CEFR(セファール)」の6段階のレベルで分類されます。大学側は一定以上のレベルを出願資格としたり、レベルに応じて共通テストに加点したりする予定です。

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(写真)記者会見する「〝入試改革〟を考える予備校講師の会」の吉田さん(左)、しぎょうさん=1日、文科省

 共通テストの延期を求めている「“入試改革”を考える予備校講師の会」の、しぎょういつみさんは「一つひとつ基準や性質が全く異なる七つの試験を、一つの枠にはめて入試に使うこと自体に無理がある」と強調。同じく吉田弘幸さんも「4技能が本当に必要なのであれば、国や大学入試センターが責任を持って共通テストを開発し、共通の環境の下で受けさせなければならない」と主張します。

 しぎょうさんは、センター試験に英語のリスニングが導入された前と後で日本人のリスニング力が変わった、というエビデンス(証拠)はないと指摘。民間試験導入で4技能を強化するという文科省の発想自体が誤っている、と語ります。

 「民間試験は回数を重ねるほど慣れてきて有利になる。早い段階から何度も受験できる高所得家庭の生徒と、お金がなく本番1回しか受けられない生徒の間に、大きな差が生じてしまう」(しぎょうさん)

 予備校に通う高校生・受験生からも、多くの不安の声を聞くと言います。しぎょうさんは「みんな先が不透明で、何をすべきかわからない。3年生は浪人したら完全に新しい制度になるという不安、2年生以下も早い段階で進路を固めなければという焦りで、進路がゆがめられている」と憤ります。


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