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2019年9月30日(月)

主張

刑法の見直し

性暴力被害者の叫びに応えよ

 花を持って集まり、性被害の体験や性暴力根絶の願いを語り合うフラワーデモが全国に広がっています。きっかけは、3月に性暴力の無罪判決が相次いだことでした。中でも、中学2年生の頃から実父より性虐待を受けてきた19歳の娘が父親を訴えた裁判で、性交が娘の意に反したものだったことは認めながらも、抵抗が著しく困難(「抗拒不能」)だったとまでは断定できないとして父親を無罪とした名古屋地裁岡崎支部の判決は、衝撃を与えました。

同意のない性交の処罰を

 日本の刑法では、「同意のない性行為をした」というだけでは犯罪と認められません。抵抗を著しく困難にする程度の「暴行」「脅迫」があったこと、もしくは、精神・意識の障害、酒・薬・心理的支配などにより「心神喪失」または「抗拒不能」の状態にあったことが犯罪成立の要件とされています。

 この要件があるため、被害者は捜査や裁判の過程で、「なぜ抵抗できなかったのか」の説明を求められます。「嫌なら逃げればよかった」「本当は合意があったのではないか」と言われて傷つき、訴えを取り下げたり、不起訴・無罪となったりする例が絶えません。

 刑法の性犯罪規定は、2017年に110年ぶりに大幅に改正されました。それまで女性に限定されていた強姦(ごうかん)被害者を男性にも拡大し、肛門・口腔(こうくう)性交も処罰の対象にしたこと、「告訴」がいらない「非親告罪」としたこと、親などの「監護者」が立場を利用して18歳未満の子どもと性交等を行った場合は暴行・脅迫がなくとも処罰することなどが、その内容です。これらの改正は大きな前進でした。

 一方、被害当事者らが強く要求していた「暴行・脅迫要件」の撤廃は見送られました。“同意の有無は立証が難しい”“暴行・脅迫という外形的な判断材料によって合意がないことを間違いなく確信できるようにする必要がある”というのが理由です(性犯罪の罰則に関する検討会、16年2月12日)。

 しかし、前出の判決でも「意に反する性交」だったことは認められています。他の要件が必須とは言えません。

 同意のない性交の処罰化は世界の流れです。ドイツでは16年に暴行・脅迫要件が撤廃され、身体的な抵抗がなくとも被害者が「ノー」と表明した場合には不同意性交として処罰の対象となりました。台湾、韓国、スウェーデンでは、「優越的地位を利用した場合」「睡眠、深刻な恐怖、酩酊(めいてい)など相手の脆弱(ぜいじゃく)な立場に乗じた場合」の性交を犯罪とする規定を置いています。どの国も、「同意」の定義を法律上明確にし、恣意(しい)的解釈を防ぐ工夫をしています。こうした諸外国の立法に学び、日本でも刑法見直しの議論を進めるべきです。

根本からの議論が必要

 性暴力は人格と尊厳を深く傷つけ、生涯続く苦しみを負わせます。刑法ができた明治時代には、女性への強姦は夫や父親の“財産権”侵害として扱われ、被害者の苦しみは考慮の外でした。いまでも、性被害を告発すると「あなたにも落ち度があった」と責められるなど、被害者の苦しみは軽視されがちです。フラワーデモの広がりは、そうした社会の認識自体も問うものです。刑法は、このままで良いのか。被害者の叫びにこたえた、根本からの議論が必要です。


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