しんぶん赤旗

お問い合わせ

日本共産党

赤旗電子版の購読はこちら 赤旗電子版の購読はこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加

2019年9月18日(水)

国の広域連携推進策 押し付け 自治危険に

住民の声ますます届かず

全国町村会顧問 長野県川上村村長 藤原忠彦さんインタビュー

 首相の諮問機関である第32次地方制度調査会(地制調)で、自治体間の広域連携を推進する制度改革などの議論が行われていますが、地方団体からは強い反発の声が上がっています。全国町村会顧問で長野県川上村の藤原忠彦村長に話を聞きました。(聞き手・写真 前野哲朗)


写真

 現在の国の制度改革の動きには強い懸念があり、全国町村会としてもしっかり声を上げていく考えです。地制調の議論の土台となっている総務省の「自治体戦略2040構想研究会」の報告書には、いま市町村単位で担っている行政を、中心都市と周辺自治体からなる「圏域」単位で行うことを標準化することなどが盛り込まれております。この報告書は、自治体関係者の声を聞くことなくまとめられたものですが、これが国から地方へと押し付けられるならば、町村自治は危険な状態になると考えるからです。

平成の大合併では

 このような行政区域の広域化は、私たちは「平成の大合併」(1999~2010年)で経験していますが、数多くの弊害が指摘されています。とくに、周辺自治体が中心市に吸収された形の「合併」では、中心に公共的な施設や機能が集約される一方で、周辺である農山漁村地域の住民の声が届きにくくなり、ますますさびれ、活力を失うといった事態が起きています。結局、行政側からすると、広域化すると小さいものが見えなくなってしまうのです。そして自治体とは、住民と役場の職員が知恵を出しあって運営していくものですが、自治体が大きくなると住民一人ひとりの知恵を小さくしてしまう。それは住民一人ひとりの「生きがい」や「幸せ」の量を少なくしていることでもあります。

 「平成の大合併」の時に合併しなかった小さな自治体ほど生き生きとまちづくりをやっている実態があります。この「平成の大合併」の総括もなく、さらに行政範囲を広げる「圏域行政の標準化」を自治体に押し付けることなどあってはなりません。

 日本はこれまで農業などの第1次産業を軽視し、ずっと東京に人を集める政策をやってきましたが、私はこれを大転換すべきだと思います。国は「地方創生」を掲げていますが、東京、埼玉、千葉、神奈川への転入者が転出者を上回る「東京圏への転入超過」は、昨年は14万人弱とさらに増え続けており、一極集中の弊害がますます大きくなっています。一方で、都市住民を対象にした総務省の調査では、農山漁村に「移住してみたい」と回答した人は3割を超えており、こうした人が安定して農山漁村で暮らしていける政策が必要でしょう。

農漁業軽視やめよ

 やはり農業などの第1次産業をしっかりと守り、成長させる産業として位置づけ、支援を強めるべきです。そして各自治体の取り組みとしては、私は「三風の原則」と言っているのですが、それぞれの地域の風土、風習、風味をしっかり生かしていく取り組み方があるはずで、それが特徴ある地域と産業をつくっていくことになるでしょう。私も川上村で長年農業政策をやってきましたが、まだまだ地方は潜在的資源があり、伸びしろがあります。

 平成の大合併は「国に押し切られてしまった」という悔いがあります。国が「圏域行政」を自治体に押し付ける改革を打ち出すなら「今回はそうはいかない」との強い思いがあります。“たたかう町村会”になるかもしれませんよ。


 ふじわら・ただひこ 1938年生まれ。88年から川上村村長(8期目)。2010年4月から17年7月まで全国町村会会長。著書に『平均年収2500万円の農村』(ソリックブックス)


pageup