しんぶん赤旗

お問い合わせ

日本共産党

赤旗電子版の購読はこちら 赤旗電子版の購読はこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加

2019年9月11日(水)

自らの言明と矛盾する河野外相の寄稿文

――個人の請求権は消滅しない

米ブルームバーグ通信

 河野太郎外相は、米ブルームバーグ通信に「日韓間の真の問題は信頼」と題する文章を寄稿し、4日付電子版に掲載されました。

 寄稿文は、韓国に対する輸出規制を徴用工問題と関連付ける見方に対し「これらの問題は完全に別個」と強調。徴用工問題で「主権国家の間で交わされた約束」が守られるか否かが「問題の核心」だとして、韓国を批判しています。

口実見透かされ

 しかし、安倍晋三首相自ら「1965年に請求権協定でお互いに請求権を放棄した。約束を守らない中では、今までの優遇措置はとれない」(7月3日、日本記者クラブ党首討論)と語っているように、韓国に対する輸出規制が徴用工問題での報復的貿易制限であることは明らかです。米国でも、ニューヨーク・タイムズ電子版(7月16日付・現地)が、G20(20カ国・地域首脳会議)で自由貿易を主張した安倍首相はその2日後、「安全保障に関するあいまいで不特定な懸念から、韓国の電子産業に必須の化学材料に対するアプローチを制限し、自由貿易に打撃を与えた」と指摘。「貿易を武器化するトランプ氏のやり方をまねした」と評されるなど、「安全保障上の懸念」が口実にすぎないと見透かされています。

 徴用工問題について河野氏は、65年に結ばれた日韓請求権協定の交渉過程で、韓国側の要求に「戦争による被徴用者の被害に対する補償」が含まれていたとし、協定によって「完全かつ最終的に解決」されたと強調しています。また、2005年8月に韓国政府は無償資金協力として受け取った3億ドルに「強制動員」に関する「苦痛を受けた歴史的被害」の補償も含まれることを再確認し、被害者救済にこれを使う道義的責任を明確にしたとしています。

 そのうえで昨年の韓国大法院(最高裁)判決が、元徴用工へ慰謝料の支払いを命じる判決を出したことについて、「明らかに1965年の協定に違反するもの」と述べています。

補償でなく賠償

 河野氏は「補償」という言葉を使い「補償」問題の決着を強調していますが、韓国の元徴用工が求めているのは被害の「補償」ではありません。日本の不法な植民地支配と直結した日本企業の反人道的な不法行為を前提とする日本企業に対する慰謝料請求(損害賠償)です。

 補償も賠償も、損害の補填(ほてん)という点は同じですが、賠償は違法行為に対するものであり、補償は適法行為に対するものです。

 交渉当時、韓国側が「補償」としたのは、朝鮮半島に対する植民地支配の不法性について日本と韓国で認識が全く一致せず、「合法性」を前提に、徴用された韓国人への「補償」として、被害の回復を求めざるを得なかった事情がありました。

 しかし、仮に徴用そのものが当時の日本の国内法に基づく「合法」なものでも、監禁状態で過酷労働を強いられるなどの不法な仕打ちに対しては損害賠償を求めることができます。それが現在の徴用工問題で基本的に争われていることです。

 重要なことは、国家が個人の権利を消滅させることはできないことです。たとえ韓国政府が経済協力資金を受け取っても、あるいはそれを韓国人への補償に充てると約束しても、個人の慰謝料請求権が消滅することはありません。

 しかも河野氏自身が大法院判決の直後に、「個人の請求権が消滅したと申し上げるわけではない」(昨年11月14日、衆院外務委員会)と国会で明言しています。寄稿文は、河野氏自身の言明とも矛盾するものです。

 個人の損害賠償請求権が消えていないなら、韓国大法院がその支払いを命じることが、明白な協定違反とはいえません。まして、個人の救済のために企業と徴用工の和解による解決を目指すことは何ら協定違反ではありません。

 河野氏の「寄稿」は対韓「制裁」の行き詰まりを示すものです。(中祖寅一)


pageup