しんぶん赤旗

お問い合わせ

日本共産党

赤旗電子版の購読はこちら 赤旗電子版の購読はこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加

2019年9月2日(月)

日本郵便かんぽ不正の裏側

どう喝30分 ノルマ迫る

毎日目標・懲罰研修…容赦なし

 日本郵便によるかんぽ生命保険の二重契約など「不正販売」が社会問題になっています。日本郵便は、3000万件にのぼるすべての契約の調査を年内を目途に行うとしていますが、10月から営業を再開する方針です。不正販売の背景に何があったのか。現場の実態から浮かび上がってくるものは―。(玉田文子)


写真

(写真)1日単位で目標の達成を求める管理者からのメール(写真の一部を加工しています)

 「営業の成績上位者だけでなく、月20万円のノルマ(目標)を達成する社員はほぼ不正販売をやっています」

 こう話すのは、保険販売員のAさん。郵便局で保険担当の営業社員として15年間働いてきました。

1日3回メール

 「日本郵便にとっては保険販売が大きな収入源でありノルマが課せられていました。かんぽ生命の上場後は、さらにノルマが厳しくなった。保険料が跳ね上がって以降、契約が取れなくなるなかで、みんな高額の商品を取りたいと必死でした」

 民営化後、かんぽ生命が上場した2015年以降は月額保険料20万円が必達目標となり、それ以下は「成績不良者」とされました。それ以前のノルマは月12万~15万円で、月20万円の契約を取れば「優績者」として評価されていました。

 営業社員はアポイントメント(面会の約束)の数まで日報に記入し、1日単位の目標達成を求められました。営業実績は月平均50万円以上の契約をとったAクラスから10万円未満のFクラスにランク付けし、毎日局内に張り出されました。

 目標に至らない社員には「できないことは許されない」と、どう喝が飛び、業務用携帯に午前・昼・午後と3回、管理者から「目標に対して○○円不足している」とメールが送られました。

 「ブロックの本部長が来局して部長も含めた全員を直立不動にさせて『どうやって達成するのか』と、30分もどう喝を加えたこともあった」

残業などを強要

 目標達成のための残業や土日・祝日勤務も強要され、「スキルアップ研修」という名で2日間泊まり込みの懲罰的研修も行われました。息苦しい職場の雰囲気から逃れるように、多くの社員が退職していきました。

 Aさんも研修に何度も参加させられました。「私はノルマにこだわりませんでしたが、契約が取れない社員は、研修やどう喝から逃げたくて不正販売に追い込まれていったと思います。ローンや生活のために年間で百万円単位の手当がつく不正販売をやめられなかった社員も少なくないと思います」

かんぽ不正 株式上場が拍車

だましテクを局内で共有

不利益の是正・ノルマ体制見直しを

写真

(写真)スキルアップ研修で一言一句覚えさせられた営業話法

 日本郵便は、金融窓口事業の営業収益の70%以上をゆうちょ銀行とかんぽ生命の委託手数料が占めています。

 郵便局長あてに出された「かんぽ『年度末必達額』の通知」(18年1月)では、「(1)営業目標は経営上必要な最低限の目指す着地点で必ず達成しなければならない(2)かんぽ生命からの手数料収入は約3割を占める重要な事業です」として、「手数料収入の確保に貢献」することを求めています。

 厳しいノルマ営業の背景には、こうした収益構造や完全民営化に向けた株式上場の動きがあります。

ノルマ達成ツール

 「不正販売」の多くは保険を一度解約して、新しい契約に加入する“乗り換え”で発生しています。

 顧客に保険の新旧契約を重複して結ばせ、保険料を二重に払わせた事例や、旧契約解除から新契約までの間に顧客が一時、無保険状態になった事例など、顧客の不利益が疑われる事例は過去5年間で少なくとも18万3000件に上ります。

 乗り換えは保障内容を見直せる一方、再契約時に保険料が上がるなど顧客に不利益となる可能性もあり、保険業法では、不利益を告げず新契約を締結する不当な乗り換えを禁止しています。

 「不正販売を奨励する職場もあった」と話すのは、郵政産業労働者ユニオン・東海地方本部顧問の鈴木英夫さん。先輩営業社員がインストラクターとなり、業務指導として不正販売が引き継がれていたといいます。

 「どうすれば顧客をだまして契約がとれるのか『だましのテクニック』が、ノルマ達成のツールとして管理者らが黙認するなか職場で共有されてきた。この責任は当然、経営幹部にも及びます」

基本給削って手当

 15年からスタートした成果主義を前面に押し出した「新人事給与制度」も不正販売に拍車をかけました。会社は「民営化にふさわしく頑張った人が報われる制度」をうたい、保険営業社員の基本給を12%カットして、保険の営業手当の原資に充てています。

 「保険を1件取れば今までよりも手当は増えますが、元をたどれば自分の基本給です。保険営業社員が営業手当で基本給削減分を取り返そうとすれば、普通は必死になります」と鈴木さん。

 販売員のAさんは、「私の成績は月3~5万円で、毎回研修を受けていました。研修は大変でしたが、お客様をだますような不正販売はできませんでした」と話します。

 「良心の呵責(かしゃく)に耐えられなくなって退職する人もいました。民営化後に入社し、不正販売が当たり前だと指導された人は罪の意識がなかったのではないかと思います。優績者のなかにも『これ以上続けられない』と、営業をやめて指導担当になる人もいました」

完全民営化ねらう

 日本郵政グループは07年の民営化以降、完全な民営化に向けて政府が保有している株を段階的に売却しています。

 すべての国民にあまねくサービスを保障するという郵政に課せられたユニバーサルサービスと逆行する郵便局の統廃合や郵便・物流ネットワークの再編、労働者の賃金削減など、サービスの縮小や労働条件の切り下げも進めてきました。

 全株売却となれば、株価最優先の経営が強まり、ユニバーサルサービスの後退に拍車がかかるのは必至です。

 郵政産業労働者ユニオンは7月末、日本郵政とかんぽ生命、日本郵便の3社に対して事態の全容解明や顧客の不利益是正、ノルマ体制の見直し、労働者に責任と犠牲を転嫁しないことなどを申し入れました。

 日巻直映委員長は、「まず、公益性を課せられた会社として経営責任を明確にし、不利益の是正を行うべきです」と強調します。

 民営化後、過剰なノルマや成績至上主義が郵政グループ全体に広がっていたとして、「過剰なノルマで社員を締め付けてきた結果、自爆営業や不正販売が行われてきました。局でいかにもうけるかという発想を改め、『お客様本位の業務運営の徹底』という事業方針に立ち戻り、抜本的な職場改善を行うことが求められています」と話しています。


pageup