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2019年8月15日(木)

「表現の不自由」考える

「知る権利」奪われたまま

 国際芸術祭・あいちトリエンナーレ2019(10月14日まで)の企画展の一つ「表現の不自由展・その後」。テロ予告や脅迫、政治家の介入をうけ開幕からわずか3日で中止に追い込まれました。作家の「表現の自由」とともに、市民が作品に触れ「知る権利」も奪われたままになっています。(伊藤 幸)


写真

(写真)展示中止に追い込まれた「表現の不自由展・その後」の会場=3日、名古屋市東区

 企画展は、美術館などで展示を拒否または撤去された作品を経緯とともに展示。「表現の自由をめぐる議論の契機に」と16組の作家の作品が出展されました。2015年に民間ギャラリーで開かれた「表現の不自由展」(東京)を見たトリエンナーレ芸術監督の津田大介さんが続編を希望し実現したもの。

直接作品を見て

 展示中止までの3日間、多くの人が会場を訪れました。3日には1時間半待ちの行列も。会場で大声を出す人もいましたが、多くは静かに作品と向き合っていました。「直接作品を見て、知らなかったことが分かり、来てよかった」という熱田区の女性は「もう一回行きたかった。知る機会が奪われた」と訴えます。

 攻撃の的になった「平和の少女像」は韓国のキム・ソギョンさん、キム・ウンソンさんの作品。日本軍「慰安婦」被害者の人権と名誉回復を求める韓国の水曜デモ1000回の記念に建てられた追悼碑です。東京都美術館で展示されたミニチュアが、同館運営要綱に抵触するとして撤去された経緯があります。

 日本政府が撤去を求める在韓大使館前の像と同じ型の高さ130センチほどの像とともに展示され、河村たかし名古屋市長は「日本人の心を踏みにじるもの」などと撤去の圧力をかけました。しかし、像に込められているのは被害当事者の意志と女性の人権のたたかいを継承し、戦争と性暴力をなくす願いです。

 少女像の前では、その髪や肩、握りしめた拳をなでる人、解説をじっと読む人の姿がありました。不自由展の実行委員によると、少女像に紙袋をかぶせた客に対し、別の客が抗議しやめさせる場面も。

 実行委員の女性は「少女像の前で『こんな歴史はなかった』と言った人に、『そんなことないですよ』って言う人がいたんです。表現を見た人同士が交流することも含め表現の自由。その貴重な場が3日で再び奪われてしまった。75日間やれたら、どれだけのことができたか」と悔しさをにじませます。

コラージュ作品

 もう一つ抗議が殺到したのは、昭和天皇の写真などをコラージュした大浦信行さんの「遠近を抱えて」。この作品は富山県立近代美術館での展示が県議会や右翼などの抗議をうけ非公開になりました。図録が焼却処分されたことから、作品を燃やすシーンが入った映像作品も今回展示。この作品が背景抜きに拡散され攻撃されました。

 群馬県から撤去を要請され係争中の作品をモチーフにした「群馬県朝鮮人強制連行追悼碑」や、公民館便りに掲載拒否された「9条俳句」なども展示されました。

 実行委員会は一日も早い再開を求め、作家も抗議の声を上げています。再開を求める市民の運動も広がり、トリエンナーレ参加作家も「芸術祭の回復と継続、自由闊達(かったつ)な議論の場を」と求める声明を発表。賛同が80組以上に広がっています。

 いま不自由展の展示スペース前に立ちはだかる白い壁。その奥では「表現の自由」を再び奪われた作品たちが、もう一度人びとの目に触れるのを待っています。


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