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2019年5月21日(火)

きょうの潮流

 目の前の池に飛んできた赤トンボ。すべてが焼きつくされてしまったと思っていたのに。12歳の少年は、この地に生き物が息づいていたことがうれしくて、死の間際にあった姉に見せてあげようとします▼いきなり立ち上がり「天皇陛下、万歳」と口にして倒れた姉。女子挺身(ていしん)隊として働いていたため戦死扱いで政府から勲章が送られてきましたが、それを見るたびに姉の死を悲しみ、生きていてくれたらと思わずにはいられなかったと▼あの日、母と買い物に行く途中で原爆に遭った長崎の池田早苗さん。爆心地近くの自宅にいた5人のきょうだいは次々に死んでいきました。太平洋戦争開戦の年に生まれ、終戦の翌日に命を落とした一番下の弟。まだ4歳だった遺体をひとりで火葬したときの光景は終生脳裏から離れませんでした▼つらい体験を抱えて被爆による病気にも悩まされながら、池田さんは核兵器のない世界の実現に力を注ぎました。式典で戦争が憎い、原爆が憎い、核兵器が憎いと「平和への誓い」を読み上げたことも▼被爆者の代表としてニューヨークにも出向き、草の根の交流。子どもたちや若者に戦争の悲惨さを伝え、ともに行動してきた語り部が先週、世を去りました▼平和な日を一日も生きることができなかった弟たちを思うと、ふびんでならないと悔やんでいた池田さん。核なき平和を待ち望んでいた86年の生涯。それは被爆国でありながら、いまだに核廃絶に後ろ向きな日本政府の姿勢をも問いただしているようです。


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