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2019年2月20日(水)

きょうの潮流

 井上ひさし作の宮沢賢治評伝劇「イーハトーボの劇列車」では終幕、あの世に旅立つ者たちの「思い残し切符」が客席に向かってばらまかれます。志半ばで死んだ者の無念が生きている者に託される。〈あとにつづくものを信じて走れ〉とうたった小林多喜二の音楽評伝劇「組曲虐殺」を想起させます▼今日2月20日は多喜二の命日。そして俳人・金子兜太(とうた)さんの一周忌です。「アベ政治を許さない」のプラカードの文字でも知られる兜太さん。この人もまた、戦争で非業の死を遂げた部下たちに報いるために戦後を生きた人でした▼捕虜生活を終え、トラック島を引き揚げる時に詠んだ〈水脈(みお)の果て炎天の墓碑を置きて去る〉。日銀に復職したものの、戦前と変わらぬ体質に反発。学閥の一員でありながら「学閥廃止」を唱え、左遷されます。福島、神戸、長崎を転々と。長崎時代に詠んだ一句が〈彎曲(わんきょく)し火傷し爆心地のマラソン〉。「前衛俳人」と称されます▼晩年は東京新聞の「平和の俳句」の選者に。人間が戦場で命を落とすことがあってはならない。それを体から体へと伝えるには、五七五の短い詩が力を発揮する、と俳句の力を信じました▼2012年から18年、最期を迎える直前まで撮り続けたドキュメンタリー映画「天地悠々 兜太・俳句の一本道」(監督・脚本、河邑厚徳)がこのほど完成。兜太さんの俳句を縦軸に、最晩年の貴重な肉声が収められています▼そこから何を読み取るか。兜太さんから私たちに託された「思い残し切符」です。


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