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2018年8月19日(日)

主張

サマータイム検討

悪夢を復活させるというのか

 夏の期間だけ全国的に時間を早めるサマータイムの導入に向けた検討を、安倍晋三首相が自民党に指示したことが議論を呼んでいます。2020年東京五輪・パラリンピックの「猛暑対策」として実施したい意向ですが、唐突で乱暴な持ち出し方です。サマータイムは敗戦直後に一度実施されたものの、睡眠不足や長時間労働をまん延させ国民の批判を浴び早々と廃止されたものです。その後導入をめざす動きが何度か浮上しても、支持や理解は広がりませんでした。国民に負担を強いる制度を、五輪に便乗して復活させようというのは、まさに「悪夢」です。

「体にむち打つ」と警告も

 サマータイムは、夏季に標準時間より時刻を早めた「夏時刻」を国全体で実施するというものです。東京五輪開催期間を中心に1~2時間進める案などが取りざたされています。マラソンなどの時間を前にずらせば、涼しい時間に競技ができるとのもくろみです。

 しかし熱帯夜が続く東京では時間を早めた程度では解決にならないとの指摘も相次ぎ、猛暑を理由にした導入論は説得力を欠いています。そもそも五輪の猛暑対策のために、なぜ国民生活全体に大きな影響を及ぼす時刻変更が必要なのかとの疑念の声は尽きません。

 サマータイムは、コンピューターシステムや交通機関ダイヤの変更に膨大なコストがかかることや残業増につながるなど多くの弊害がありますが、とりわけ深刻なのは国民への健康被害です。日本睡眠学会は、サマータイムという急激な時刻変更が、生活リズムや眠りの質と量に悪影響を与え、疾病リスクを高める負の側面を列挙し、「身体に鞭(むち)打つ結果をもたらす」などと警鐘を鳴らしています。

 サマータイムの歴史が長いヨーロッパの国々でも、健康への悪影響などが顕在化する中、廃止の声が広がっています。ロシアでは夏時間への移行期に健康を害する人が増加したため2011年に廃止しました。世界の現実は、導入の危険性を浮き彫りにしています。

 太陽の出ている時間が有効利用できて節電できるとか、夕方以降レジャー消費が増えるとかいう「利点」も、それほど効果はないとの調査も少なくありません。だいたい1948年に実施されたサマータイムが52年に廃止されたのは、国民の過労の原因になり能率を低下させ、生活の実情にそぐわない不便な点が多かったためです。

 五輪の猛暑対策というなら、不利益ばかりのサマータイム導入に熱を上げるのでなく、五輪開催時期を涼しいシーズンに変更することに真剣にとりくむべきです。

「五輪に便乗」許されない

 サマータイム導入をめぐっては、浮かんでは消える歴史を繰り返してきましたが、旗振りの中心にいるのは財界団体です。第1次安倍政権下の2007年に、経団連はサマータイム導入を積極的に提言し、経済財政諮問会議でも議論され「骨太方針07」に「早期実施について検討」することが盛り込まれたこともありました。当時の経団連会長は御手洗(みたらい)冨士夫氏で、現在の東京五輪組織委員会名誉会長です。同組織委員会会長の森喜朗元首相や安倍首相らと一緒になり、長年果たせなかった“宿願”を五輪にかこつけて実現するのが狙いなのか。国民を置き去りにしたやり方は、やめるべきです。


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