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2018年7月4日(水)

きょうの潮流

 幕が下りても立ち上がれない。30秒、1分…。苦しげな表情で息を切らせ、やせ細った体を抱えられるように楽屋へ。傍らには酸素吸入器と車いす。入退院をくり返しながらも高座に上がり続けました▼命を削ってまで落語をやめなかった桂歌丸さん。とてもまねできないと、仲間たちが舌を巻いた気迫や執念。そこには、後世まで落語文化を残したいという強い信念がありました▼幼い頃に父を亡くし、母とも離れ、祖母に育てられた少年の日々。そのさびしさと終戦後の笑いの少なかった時代になぐさめとなったのがラジオから流れてくる落語でした。分け隔てなく笑いを届ける職業にあこがれ、中学3年のときに弟子入りして以来、67年に及ぶ落語家人生でした▼テレビで活躍する一方で古典落語に打ち込み、長く落語芸術協会の会長も務めました。「寄席は日本が世界に誇る大衆芸能」と、国に文化予算増を求める署名活動の呼びかけ人にも。庶民いじめの政治を鋭く風刺する姿勢も変わりませんでした▼信念がもう一つ。それは平和への思いです。生まれ育った地を焼け野原にした戦争。「あんなものは愚の骨頂。人間や国同士の争いは決してやるもんじゃない。平和に慣れすぎないように、これでいいんだと思わないように、若い人たちにはきちんと伝えていかなければ」▼落語や人間にたいする深い愛情。みずからの生き方を見事に示した人生の終(しま)い方。座布団の上で歌丸さんは語り続けます。心から笑える人生を、笑い合える社会を。


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