しんぶん赤旗

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日本共産党

2018年6月1日(金)

きょうの潮流

 ビルの狭間(はざま)の古ぼけた平屋。「万引き家族」はここで雑居同然に暮らす3世代6人の家族を描きます。カンヌ国際映画祭で最高賞を受賞したこの映画、是枝裕和監督の「集大成」と思えます▼祖母の年金を当てにし、足りない分を定職のない父と幼い息子の万引きでしのぐ一家。貧困や虐待、夫の暴力、風俗産業など、現代社会の抱える問題を鋭く打ち出しながら、肩を寄せ合って生きる人々への視線は温かい▼そのまなざしは、母親に置き去りにされた4人きょうだいの物語「誰も知らない」を想起させます。置き去り事件から着想して15年後の2004年、執念で実らせた映画化。その取材で会った是枝さんは、同じ東京にいながら彼らに気付かずにいたおとなの一人である自身への「怒り」がバネだと語っていたものです▼表現者としての第1回作品は、「しかし…福祉切り捨ての時代に」。1991年、29歳のときのテレビドキュメンタリー。高級官僚の自死への軌跡を見つめ、社会の現実に対し「しかし」の姿勢をどう貫けるか、真摯(しんし)に問いかけます▼昨年の「三度目の殺人」ではその「しかし」を時代に突きつけ、歪(ゆが)んだ社会への警鐘を響かせました。家族を描く秀作を発表していながら、その延長に甘んじない、横溢(おういつ)するチャレンジ精神▼イ・チャンドン(韓国)、スパイク・リー(米)らの名匠と競って最高賞を得た「万引き家族」。この作品が照らすものをどう受け止めるか、作品と観客とのどんな対話が繰り広げられるか、興味は尽きません。


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