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2018年5月9日(水)

きょうの潮流

 子どもが小さい頃、よく読み聞かせをしました。お気に入りは『どろぼうがっこう』。泥棒学校のまぬけな校長先生とかわいい生徒たちが夜中、金持ち村に遠足に出かける。泥棒に入ったところが牢(ろう)屋(や)だった、というオチは愉快で大いに笑えました▼5年前、本紙日曜版の「この人に聞きたい」シリーズで作者の加(か)古(こ)里(さと)子(し)さんを訪ねました。「僕は戦争で死にはぐれた人間」との言葉に、故・加藤周一氏とも共通するサバイバル(生き残り)コンプレックスを感じました▼貧乏で海軍兵学校に入ろうと思ったこと。近視が進み受験すらできなかったこと。兵学校に行った旧友は皆、特攻で死んだこと。「せめて少しでも子どもたちの役に立つことをしたい。そうすれば『あいつが生きている意味があったな』と思われるかなと」▼川崎市の工業地帯での子ども会活動を通じて、たどりついたのが絵本を描くことでした。「軍人になろうとした中学生の頃の僕は、日本の国策が間違っていると判断する思慮がありませんでした。子どもたちには僕みたいな失敗はしないでくれよと。自分で考えて判断する賢い人間になってくれよと。そのお手伝いをすることが僕の償いだと」▼今年1月、「だるまちゃん」シリーズの最新作3冊を出版。舞台に選んだのは宮城、福島、沖縄でした。工学博士で多くの科学読み物も執筆。頼まれても描かなかったのが原発推進の読み物でした▼2日、92歳で死去。あとには600以上の作品と子どもたちに託す願いが残されました。


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