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2018年5月1日(火)

きょうの潮流

 眉間から声を出せ。それには下腹と腰に力を入れ、息をいっぱい吸って、鼻の裏に抜けさせて声を出すんや。若いころ「覚えも声も悪かった」という竹本住太夫(たけもと・すみたゆう)さんは先代からやかましく言われたそうです▼人形浄瑠璃文楽の語り手を70年近く務めながら芸の道に終わりはないと。人間国宝に認められたときに、敬愛する高田好胤・薬師寺管主から贈られた「奥深き語りの技をただただに磨き来りて今日の功なほになほなほ」。それを一層の精進として受けとめました▼語りの太夫と、三味線弾き、人形遣いの三業が一体となって演じる総合芸術の文楽。浄瑠璃の世界を描き出す太夫として、喜怒哀楽や心に響く人の「情」を味わい深く伝え続けた93年でした▼300年余の歴史をつむぐ伝統芸能の文楽は、日本だけでなく世界の宝としてユネスコの無形文化遺産に。それを「特権意識に甘え、世間とかけ離れた価値観、意識のもと伝統にあぐらをかいてきた」と攻撃したのが、7年前に大阪市長となった橋下徹氏でした▼もうからない文化はいらないと、文楽協会への補助金削減を表明。衰退の危機に。住太夫さんは「大阪で生まれ育った文楽の灯は決して消してはいけない」と前面に立って異議をとなえ、価値を訴えました▼たゆまぬ稽古で芸を磨き、受け継いだ伝統文化を守り、後進に伝えてきた情の語り手。晩年には「人間、最後は人間性でんなあ」と口ぐせのように。その言葉は、生涯をかけて追求してきた人間の本質を問いかけています。


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