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2018年3月5日(月)

きょうの潮流

 電車の片隅で一人の女性がこぼれ落ちる涙をそっとぬぐっていました。手には一冊の絵本。題名は『くまのこポーロ』です▼ツキノワグマの親子の物語。母熊の愛情いっぱいに育った子熊たちが、独り立ちのときを迎えます。子別れの時期がくると、母は木いちごのなっている場所に子どもを連れていき、夢中で食べている間に姿を消します▼作・絵の前田まゆみさんによると、マタギと呼ばれる猟師の間で言い伝えられてきた「いちご落とし」という伝承をもとに描いたといいます。子育て中にたくさんある小さな子離れ、親離れ。そんなときに、親子の会話がうまれるきっかけになればと▼みずからの体験を話に重ねたのか、絵本を見ながら悲しい思い出がよみがえったのか。先の女性の胸中は知るよしもありません。しかし、そこには親子で過ごした大切な時間が流れていたのでは。それぞれの親と子がともにつむぐ“物語”に同じものは一つとしてないでしょう▼3月。卒園・卒業のシーズンです。別れとともに、新天地にふみだす子どもを誇らしげに見守る親たち。成長する姿を喜びながら、寄り添ってきた手を離れていくさびしさも感じます▼期待と不安。学びの場にしても、働く場にしても、いまの社会のしくみのなかで親子の希望をかなえていくことは難しい。自分の生きる場所を見つけ、幸せな人生を送りたい。そんな当たり前の願いを阻んでいるものは何なのか。どうすれば変えられるのか。旅立ちのときに、思いはめぐります。


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