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2018年2月1日(木)

送電線 9割空きも

東北電力“将来の原子力など考慮”

電力大手、発電・売電を拒否

 太陽光など再生可能エネルギーの中小事業者が、送電線を所有する大手電力会社から、送電網が空いていないとして、発電・売電を事実上拒否される事例が各地で起きています。しかし京都大学の研究グループが、空き容量がゼロとされている送電網が、実際には2~18%しか使用されていないのではないかとする調査を発表しました。(岡本あゆ)


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(写真)安田陽・京都大学大学院経済学研究科特任教授

 電力工学が専門の安田陽・京都大学大学院特任教授は、公益法人・電力広域的推進機関の公開するデータをもとに、送電網の実際の利用率について調査しました。

 「(送電網は)パイプの中に水が流れているイメージです。パイプの太さに相当するのが運用容量で、最大これくらいの電気を流せるということです」

 電力広域的運営推進機関が公開しているデータによれば、東北電力十和田幹線では、年間最大運用量の2・0%しか利用されていないことが分かりました。90%以上の「空き」が存在したのです。(表参照)

 大手電力事業者や経済産業省は、他の送電線が停電した場合などに備えて必要な余裕だと強調しています。

 安田教授は「道路にたとえると、緊急車両のために車線を空けておくのは分かるけれど、90%以上という空きが本当に必要なのか」と疑問視します。

 東北電力の回答によれば、必要な空き容量の算出は、送電線に接続したすべての発電施設がフル出力したケースを想定して行われています。

 これには、安倍政権がベースロード電源と位置づける、再稼働を将来見込む原発や新設予定の火力発電所など、現在出力をしていない施設も含まれます。東北電力は「火力や原子力など将来の需要を考慮している」と回答しました。

 安田教授は「東北管内の全太陽光パネルが100%出力したことは一度もなく、最大70%ほど。風力も同様で、両方100%稼働することは気象学的にほとんどありえません」と指摘。「万一の場合は、事前に少しだけ止めればいい。海外では実際、調整によって停電のリスクを上げることなく、再生可能エネルギーの大量導入に成功しています」と話します。

 技術的な方法があるにもかかわらず、電力会社側が検討を行っているかは不明です。

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再生可能エネルギー買い取り拒否

巨額負担払えず 事業計画を断念

 2016年に福島県飯舘村内での風力発電を検討していた飯舘電力株式会社の近藤恵・専務取締役は、東北電力から送電網が空いていないため、変電所と高圧電線の増強費用として、20億円あまりを負担しなければ接続はできないと回答されました。

事業費の3倍も

 「2メガワットの小規模発電で、事業費は約6億円の見積もりでしたが、その3倍以上の増強費が必要になると言われました」と近藤さん。

 東北電力の担当者は「つなげないと言っているわけではない」と繰り返しましたが、一事業者が巨額の負担を支払うことは事実上、不可能でした。事業計画は断念せざるをえませんでした。

 研究グループの調査で実際の送電網使用率が2~18%と知り、「そんなにガラガラなのかというのが正直な印象。そこに2メガワットという小規模な発電さえ入れてくれないのは、どういうことなのか。実態を知りたいというのが、事業者の一番の希望です」。

 昨年12月には、原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟が「大手電力事業者に対して、自然エネルギー事業者に対する『空き容量ゼロ』を理由とする系統連系(受電)拒否をやめるよう強力に指導することを求める」との申し入れを電気事業連合会に行っています。

時代遅れの制度

 安田教授は「ドイツでは風力・太陽光が国全体の電力の20%を占めます。電力を調整する技術は世界的に著しく進んでいるにもかかわらず、日本は追いつけていません」と指摘します。

 日本でも経産省などで「コネクト・アンド・マネージ」と呼ばれる方針が議論に上り始めています。新規事業者を送電網にまず接続(コネクト)し、万一の場合は技術的に調整(マネージ)するというものです。

 一方、東北電力は、送電網増強の負担を複数の事業者で分担する「募集プロセス」と呼ばれる制度を実施しています。一部の募集の締め切りは2018年2月です。

 安田教授は「風力などの大規模開発では、渋々だが増強費を負担しようという人も出てきます。これから経産省が“送電網を増設しなくても接続できる”との見解を出した場合、増強費用を負担した人との公平性はどうするのか。訴訟問題になるおそれもあります」と危ぐします。

 安田教授はこう話します。「電力会社側は、今までのやり方で粛々とやっているだけかもしれません。でも、今までのやり方で日本はこれから生き残っていけるのか、考えるべきではないでしょうか」

工事費 負担していただく

東北電力 本紙に回答

 ―空き容量の算出は?

 送電線の空き容量は、火力や原子力など将来の需要を考慮して計算している。隣接する送電線などが停電した場合、他の送電線でカバーできるよう余裕を設ける必要がある。それらを含め、空き容量はゼロとしている。

 ―送電網増強の費用負担を事業者に求めている?

 その発電所のために設備を建設する以上、発生した工事費は負担していただく。送電線をより効率的に利用する議論が国の方であることは聞いているので、今後注視したい。

 ―接続問題が再生可能エネルギー普及の障害とされているが

 再生可能エネルギーに限らず、同様の手続きを踏んでいただいている。

 ―小規模な事業者にとって負担は大きいが

 事業者様の規模については何とも申し上げられない。


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