2016年9月3日(土)
きょうの潮流
北アルプスの山々を抱く信州・安曇野。詩趣に富んだ風光の地には昔から数多くの文人や芸術家が足跡を刻んできました。湧水わく田園の中には記念館や美術館が点在しています▼今週の本紙日曜版も紹介する安曇野。その地に、いわさきちひろの美術館が開館して20年ほどがたちます。周りに広がる公園の中に今夏、「トットちゃん広場」ができました▼ちひろ美術館の館長でもある黒柳徹子さんの自伝小説『窓ぎわのトットちゃん』の舞台、トモエ学園の世界を再現。公園を営む松川村が長野電鉄から譲り受けた電車の教室や図書館には、目を輝かせた子どもたちの姿がありました▼問題児として小学1年生で退学となったトットちゃんに、やさしい手を差し伸べたトモエ学園の校長先生。「君は、本当は、いい子なんだよ」。いつも掛けられたその言葉に、黒柳さんはずっと支えられてきたと▼始まった新学期。休み明けのこの時期、子どもの自殺が増えるといいます。「ストレスでもう生きていけそうにないです」。先週、青森の中学生が列車にはねられて亡くなりました。スマホには、いじめを受けていたという「遺書」がつづられていました▼父親は「命を懸けてメッセージを残した」。しかし相談を受けていた学校側は、よくあるトラブルとしていじめと判断していませんでした。みずから命を絶とうとする孤独や絶望。悩んだり、困ったりしている子どもがいたら、周りのおとなたちが助けて―。トットちゃんの思いは、いまも強く。