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2016年2月4日(木)

上官暴行が自殺未遂原因

海自潜水艦内 両親が国提訴

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 広島県の海上自衛隊呉基地に停泊中の潜水艦「そうりゅう」内で2013年9月、幹部自衛官(2等海尉)の坂倉正紀さん(42)が拳銃自殺を図ったのは「上官らによる殴る蹴るの暴行でうつ病を発症し、これを放置した国の安全保証義務違反」が原因として、山口県宇部市の両親が3日、国を相手に3500万円の損害賠償を求めて山口地裁に提訴しました。


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(写真)会見する坂倉正紀さんの兄、孝紀さん(左)と田川弁護士=3日、山口県弁護士会館

 訴状によると、坂倉さんは、2000年4月に海上自衛隊に入隊し、08年には幹部専修科海技(II)課程を修了し幹部(3等海尉)に昇進。翌09年には2等海尉となり潜水艦の船務士、機関士を経て13年5月から「そうりゅう」の船務士などに着任。しかし上官の堀江崇1等海尉(船務長)から「業務遂行速度が遅い」などとして頭部への殴打、足を蹴るなどの暴力を繰り返されました。

 坂倉さんは、以前に乗艦していた潜水艦でも上官からの暴行などで、うつ病の前兆ともいえる症状を見せていました。

 9月2日午前5時すぎ、艦内で破裂音を聞いた機関長が、拳銃をくわえた状態でうつ伏せに倒れている当直中の坂倉さんを発見しました。意識がありませんでした。救急搬送された広島大学病院での緊急措置で一命を取りとめたものの、頸(けい)髄損傷により今も寝たきり状態が続いています。

 両親は訴状で、「(海自は)自殺未遂を『暴力を伴う指導』によるもので、『暴力・暴言によるいじめ』と認定せず加害者への処分も軽微だ。処分を公表しなかったのは『家族が望まなかった』というが事実ではない。これでは自衛隊員の命がないがしろにされる。本人の傷病は死に匹敵する。家族ら原告が被っている苦痛は筆舌に尽くしがたい」と指摘、国の責任と隠ぺい体質を告発しています。

 坂倉さんの兄、孝紀さん(45)は提訴後の記者会見で「1年前にも『そうりゅう』で自殺があった。自衛隊では暴力が常習的になっている。隊員の命を守れない自衛隊に国民の命を守れるのか。自衛隊から暴力を一掃したい。気の優しい者、気の弱い者ほど犠牲になる」と悔しさをにじませました。

 代理人の田川章次弁護士は「正紀さんにもっともひどい暴力をふるった上官がわずか10日の停職、うつ病の発端をつくった加害者も2日の停職は考えられない。しかも処分内容も家族に伝えない隠ぺいが提訴につながった」と自衛隊の異常な体質を告発しました。

解説

暴力容認・隠ぺい体質を問う

 この裁判で問われるべきは、繰り返される自衛隊内での自殺、そこに横たわる暴力を「指導の範囲」として容認し、問題が発覚するとこれを隠ぺいする体質です。

 「艦内における暴力を伴う指導などの複数の要因が作用し、うつ病を発症していたため、法令に違反して拳銃と弾薬を使用することへの抑制力が弱まっていた」。海自の家族への説明文書です。

 ここにあるのは坂倉さんの実兄、孝紀さんが指摘する「暴力を許す風土、弱いものの切り捨て」という自衛隊の体質です。拳銃を使ったのは坂倉2尉の法令違反といわんばかりの問題のすりかえによる責任逃れに終始する態度に示されています。

 海自は、潜水艦の浮上で釣り船を沈没させ多数の死傷者を出した「なだしお」事件では航海日誌を改ざんし、先輩の暴行、恐喝に耐えられずに護衛艦の乗組員が鉄道自殺した「たちかぜ」事件では、いじめと犯罪行為の証拠類を隠している事実を法務担当幹部の内部告発でようやく法廷に提出するなど、その隠ぺい体質は一貫しています。今回の隠ぺいは「家族が公表を望まなかった」とするなどさらに悪質化しています。

 安倍政権による集団的自衛権行使容認で、隊員の命の危険が高まっているときだけに、自衛隊のこうした体質を法廷で明らかにし、その責任は厳しく問われるべきです。

 (山本眞直)


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