2015年12月26日(土)
マンション杭データ偽装問題
横浜と同工法のトラブル56事例
14件が計画・設計に起因
横浜の大型マンション傾斜に端を発した杭(くい)打ちデータ偽装問題で、元請け・三井住友建設の設計前の地盤調査や施工管理の責任を問う声が広がっています。同マンションと同じ杭打ち「工法」のトラブル56事例を分析した専門書によると、計画・設計が要因のトラブルが14例にのぼることが分かりました。(遠藤寿人)
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地盤工学会
これは土木、地質、建築などの専門家でつくる「公益社団法人 地盤工学会」(東京都)が編集した『杭基礎のトラブルとその対策』(2014年11月発行)で指摘されています。トラブル事例は同学会が建設会社や基礎杭関係団体にアンケートを送り、13年3月までに収集したものです。
残った基礎が杭高止まりに
問題の工法は「プレボーリング工法」。事前に所定の深さまで地盤を掘削し、その孔(あな)に、既製のコンクリート杭を埋め込む方式。近年、この工法は大幅に増加し、施工実績の約85%(12年度)を占めています。国土交通相の「大臣認定」工法でのトラブルや周辺地盤の沈下例もあります。
計画・設計に起因する14例のトラブルは、杭が支持層(固い地盤)に届かない「杭の高止まり」が6件。要因は、計画段階で地盤条件の把握が不十分なものが3件、支持層選定ミスが3件でした。また、杭の「傾斜・偏心」が14例中10件。その要因のすべてが、計画段階での地中障害の把握不足でした。
同学会は、地中に残された躯体(くたい)や杭(既存杭)の問題は、今回の調査で「最も注目される」と強調。基礎撤去後の空洞へのコンクリート流出、杭の傾斜、杭心のずれ、残存基礎が障害となる杭の高止まりなどが多く報告されているとしています。防止策として(1)土地売買に伴う(既存杭などの)情報伝達の義務・規格化(2)基礎撤去跡の埋め戻し手法の統一などをあげています。
予算に合わせ調査数削減も
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また同学会は、地盤調査の精度の向上や適正な調査数量の確保にも言及。「トラブルの大半は地盤の要因が関与」しているが、建築業界の低コスト化の影響で「予算に合わせ地盤調査数量が削られるケースが多い。しかし、杭基礎の設計・施工においては…適正な調査数量の実施が望まれる」としています。
同書の編集担当者は「横浜もそうだが、凸凹や離れたら深さが違うような地盤では、地盤調査を密にしようということと、既存杭が地中のどこにあるのか、情報を収集しようということを強調した」といいます。
同書の出版企画委員会名簿には、幹事長の欄に横浜の杭打ち偽装の当事者である「旭化成建材」の名も見えます。
横浜のマンション杭打ち偽装問題では、元請け三井住友建設の地盤調査の不十分さが当初から指摘されています。杭が支持層に届いていない場所は、支持層が深さ14メートルと想定していましたが、16メートルと分かりました。ボーリング箇所数、土質試験などはどうだったのか―。
三井住友建設は、マンションを建設する前に解体された建物の杭が18メートルだったことを事前に知っていたことも判明。同社の地盤調査や設計・施工管理のずさんさが露呈しています。三井住友建設や業界団体は徹底して事実を明らかにするとともに、再発防止のために政府・国交省は実態把握に全力を尽くすべきです。