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2015年7月8日(水)

2015 とくほう・特報

「ポツダム宣言」から見えるもの

名古屋大名誉教授(国際法) 松井 芳郎さんを訪ねて

進歩的な「二つの視線」

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 7月は、戦後日本の原点であるポツダム宣言(「日本降伏の条件を定めたる宣言」)が発表されて70年を迎えます。5月の党首討論で、日本共産党の志位和夫委員長が同宣言を引用しながら安倍晋三首相を追及。首相が「つまびらかに読んでいない」と答弁し、世界に衝撃を与えました。ポツダム宣言を見つめなおすことで何が見えてくるのか、国際法の松井芳郎(よしろう)名古屋大名誉教授を京都の自宅に訪ねました。 (若林明)


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 ポツダム宣言は、1945年7月26日、降伏後のドイツのベルリン郊外ポツダムで米国・トルーマン大統領、英国・チャーチル首相、中華民国・蒋介石主席の共同声明として発表されました。内容は、日本国民を欺瞞(ぎまん)し世界征服の誤りを犯させた権力と勢力を永久に除去(6項)することや、戦争犯罪人への厳重な処罰、民主主義的傾向の復活強化や基本的人権の確立(10項)などを求めたものです。

タテ軸に「歴史」 ヨコ軸に「国際」

 松井さんは、このポツダム宣言を理解するうえで、「『タテの視線』(歴史的な見方)と『ヨコの視線』(グローバルな見方)の二つが必要だ」と指摘します。

 「タテの視線」でみると、ポツダム宣言は「反ファシズム・民主主義擁護の戦争」という連合国の理念の具体化として位置づけられます。その出発点はルーズベルト米大統領とチャーチル英首相による「大西洋憲章」(41年)で、領土不拡大と政府の形態を選ぶ人民の権利の承認、武力の放棄と一般的安全保障機構の設立などを掲げました。これを引き継いで連合国宣言(42年)となり、日本との関係ではカイロ宣言(43年)とポツダム宣言で具体化されました。

 松井さんは「これらは連合国の参戦のイデオロギー的正当化という側面があったにせよ、掲げた思想は進歩的で優れた方向でした。そして、戦後の国際社会の方向性を示したものとなり、国連憲章にも具現されました」といいます。

 この動向に対し戦前・戦中の日本は、第1次世界大戦後の国際連盟結成(20年)やパリ不戦条約(28年)などに象徴される「戦争の違法化」の考えがほとんど念頭にない状態でした。「もっぱら自国にとって何が利益になるか、自国の行動をどう正当化すれば国際社会に通るかという発想でした。こうした態度をとれば歴史的にどう批判を受けるかなどという発想はなかった」と松井さんは指摘します。

 「その日本が戦争禁止に向けての国際社会の動きに立ち戻ることを約束したのがポツダム宣言であり、日本国憲法はその象徴です」

 こうした「タテの視線」に対して、植民地支配の問題など「ヨコの視線」は、第2次世界大戦後の世界でも、きわめて不十分でした。

 松井さんは「アジア・アフリカで民族解放闘争が進展し、独立した国が大量に国連に加盟しました。国連の中身が変わってきて、60年に植民地独立付与宣言という総会決議が採択されたことが契機になり、当時起草中だった国際人権規約に自決権の規定が入ります」と解説します。

国際社会の発展 安倍首相は否定

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(写真)東京湾内の米艦ミズーリ上で降伏文書に調印する重光葵外相=1945年9月2日

 こうした歴史を踏まえて、ポツダム宣言を「つまびらかに読んでいない」などという首相の姿勢はどういう影響をもたらすのか。

 松井さんは、「一つは『タテの視線』を否定することで、国際社会と国際法の歴史的発展の全体を否定することになります。『仲間内』であるはずの欧米諸国によってもこれは認められません。米国もしばしば懸念を表明しています」と指摘します。

 もう一つ、「ヨコの視線」との関係でも問題を引き起こしています。

 「侵略戦争と植民地支配がもたらした結果と戦後責任の未清算は、近隣のアジア諸国民との友好関係を決定的に妨げてきました。中国と北朝鮮との関係では軍事的な危険性もありますが、その要因の一つに日本が戦争責任と戦後責任を誠実に果たしてこなかったことがあるのは明らかです」

 「例えば、『慰安婦』問題で日本軍の関与と強制性を認め、謝罪を表明した『河野談話』を否定する議論を黙認することは、責任逃れをこととしており、犠牲となった女性に対する反省と配慮の気持ちがうかがえず、戦争責任と戦後責任を果たす態度とはいえません」。松井さんはこう強調します。

戦争法案は戦前日本の発想

 「戦争法案は、日本の到達点を戦前段階まで戻すことになる」。ポツダム宣言の意義を語るなかで、松井さんは安倍内閣がすすめる戦争法案をこうきびしく批判しました。

 「とくに『自衛権』は典型的です。現状では自衛権は国連のもとできわめて限定された例外的なものとなっています。武力行使は違法だけれども、自衛権なら違法性を阻却(=しりぞける)できるという構造です。ところが、そういう例外的だというスタンスが安倍内閣にはまったくない。自衛権といえば、なんでもできるという議論で、在外自国民の保護でもサイバー攻撃への対処でも自衛権で武力が使えるという主張をしています。いわば両大戦間の時期の議論への先祖がえりです」

 松井さんは、集団的自衛権行使容認の口実としている「存立危機事態」にとくにきびしい目をむけます。

 「自国に攻撃があるということは一応客観的事実を確認できます。けれども、他国に対して攻撃が行われていて、そのことが自国の死活的な利益に重大な影響をもたらすかどうかは、主観的な判断ですから、証明は難しい。客観的な事実か主観的な判断かは、今度の法案の決定的な問題点です」

 「安倍首相は『日本の国民を守る』といいますが、今回の法案のように軍事力で守るという選択が世界からどう見られるかを考えていない。アメリカと協力して世界を仕切る一員に加えてもらおうという発想は、第1次大戦後に日本が歩んできた道をもう一度思い出させます」。松井さんの警告です。

ポツダム宣言から(要旨)

 日本国民を欺瞞(ぎまん)し世界征服の誤りを犯させた権力と勢力を永久に除去する(6項)

 「カイロ」宣言は履行しなければならない(8項)

 日本国軍隊は武装解除の後、家庭に復帰し平和的・生産的な生活を営む(9項)

 俘虜(ふりょ)(捕虜)虐待を含む一切の戦争犯罪人に厳重なる処罰。政府は国民の民主主義的傾向の復活強化の障礙(しょうがい)を除去する。言論、宗教・思想の自由、基本的人権の確立(10項)

 国民の自由な意思による政府の樹立。占領軍は直ちに日本国から撤収(12項)

 

 カイロ宣言 エジプトのカイロで米・英・中3国の首脳が43年12月、対日戦争の処理について発表した宣言。領土不拡大を表明するとともに、日本が第1次世界大戦後に奪ったいっさいの地域、また中国から盗み取った地域を返還すること。さらに朝鮮を奴隷状態から解放し自由・独立の国にすることなどを求めています。


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