2015年6月1日(月)
ネパール震災1カ月
偏る援助にいら立ち
「格差さらに拡大」警告も
大震災から1カ月が過ぎたネパールの農村で、公平でない援助物資の分配が住民の不満を高めています。背景には経済格差や差別など複数の要素が絡みます。専門家は「震災で、『持てる集団』と『持たざる集団』の格差がさらに拡大する恐れがある」と警告します。(シカルジャング村=ネパール中部ゴルカ郡=安川 崇 写真も)
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首都から延びる幹線道路を外れ、深い峡谷沿いの無舗装路を4輪駆動車で2時間。シカルジャング村の農婦パビトラ・ビカさん(40)がひび割れた自宅前で訴えます。
「壁が室内に崩れ、サリー1枚しか着る服がない。手持ちのカネは500ルピー(約600円)。これからどうしていいのかわからない」
カースト最底辺
70戸あるこの村の住人は、ほとんどがカースト最底辺に属します。政府からの支給物資は1世帯1枚のビニールシート。その他、個人ボランティアなどから届いたコメ25キロで食いつないでいます。
「援助物資を積んだトラックがすぐ近くの道を通るが、ここには止まらない。私たちには頼る先がない」
一方、約500メートル離れたタカルガウン村。住人はこれまで3回にわたり、物資を受け取りました。コメのほか、1世帯3枚までのシート、ビスケット、インスタントラーメン、塩などが届いています。
「もちろん十分ではない。雨期が来るとシートで過ごすのはつらい。だが、今後も援助は届くだろう」
農家のチャビラル・ポクレルさん(57)は語ります。この村の住人は、高位の司祭カーストに属します。
被災地の複数の村で、「経済力や影響力のある地域に援助が偏重している」という不満を耳にします。
「単純にカースト差別の問題というより、事態はもう少し込み入っている」
ネパール農村の事情に詳しい村落支援NGO「農村再建ネパール」(RRN)のアルン・ドジ・アディカリ専務理事(56)が説明します。
栄養状態は悪化
「農村でも教育を受けた優勢な集団は、地域の公務員や政治家などさまざまなコネクションを持っていることが多く、無視されることもない。それに対し、もともと立場の弱い集団は識字率も低く、自分たちの声を届ける手段を持たない。結果、全体の傾向として彼らの栄養状態は悪化し、病気のリスクも高まる」
地域経済面で比較的有力な集団は、家族の一部が首都などの大都市で暮らしている場合が多く、政府以外の援助団体に連絡をとれるケースもあるといいます。
「有力な集団も弱い集団も、同じ被災者だ。しかし現状が続けば、社会的に脆弱(ぜいじゃく)な集団が、この震災を通じてますます脆弱になる恐れが強い」
同国では2006年まで続いた毛沢東主義派と政府の内戦や、その後の政治的移行期の混乱の中で、地方行政組織の選挙が15年以上実施されていないという事情もあります。「住民に選ばれた代表者」が援助に関与していれば、事態はよりましだったと指摘する識者は多い。