2014年11月4日(火)
きょうの潮流
美術家で作家の赤瀬川原平さんが10月26日、77歳で亡くなりました。思い出すのは「老人力」という言葉です。物忘れ、いいかげんさ、脱力感などの老化現象の中に、経済効率優先の社会に対抗する力を見いだし、共感を呼びました▼モーロクしたとかボケたとかいう代わりに〈「あいつもかなり老人力がついてきたな」というふうにいうのである。そうすると何だか、歳(とし)をとることに積極性が出てきてなかなかいい〉と(『老人力』)▼30年間暮らした東京・町田市の文学館で開催中の回顧展には、前衛美術家としてスタートした時代の作品から、パロディー漫画、尾辻克彦の名で発表した小説、路上の奇妙な風物を撮影した写真などが展示されています▼ありふれた日常の事物を徹底的に観察することで、別の見方を発見し、新しい世界を表出する作風です。「宇宙の缶詰」と題した作品は、カニ缶のふたを開けて中身を取り出し、外側のラベルを内側に貼ったもの。宇宙が反転し、缶に包み込まれます▼ある日、四谷の路上で、建物の側面に設置された、どこにもつながっていない7段の階段を発見。「四谷純粋階段」と名付けて、路上観察学会を結成しました。いわく〈言葉になったもの、つまり見えてしまったものをもう一度見るより、まだ見えていないものを見たい〉(『常識論』)▼本紙のインタビューで「端っこや辺境、ダメなものといわれているなかに、大切なものが潜んでいるわけ」と語ってくれた赤瀬川さん。しっかり見ていきます。