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2014年5月25日(日)

2014 とくほう・特報

建設分野への「外国人技能実習制度」流用――

“実習生は危ない現場に出せません”

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 震災復興や東京オリンピック(2020年)で建設需要が増えるなか、安倍政権が「即戦力」となる外国人を活用すると言い出しました。「外国人技能実習制度」の仕組みを流用する考えです。技能実習制度は国連人権規約委員会などから改正を求められる、いわくつきの制度。建設分野の人手不足・高齢化は以前から解決が求められてきた問題だったのに、あまりにも姑息(こそく)ではないか。 (竹原東吾)


写真

(写真)東京都内の建設現場

専門家「取り繕いだ」

 「外国人技能実習生は危なくて現場に出せません」。こう語るのは全国建設労働組合総連合(全建総連)の田口正俊書記次長です。

 「実習生は言葉があまり通じないうえに、クレーンなど騒音のなかで作業するため指揮命令がよく聞こえません。言葉を理解できる日本人でも転落などの死亡事故があります。鉄骨や鉄筋、型枠など躯体(くたい)(建物の主要な骨組み)は危険性が高いのですが、ここが建設生産の要です。すぐに働かせることができない実習生は『主力』にはならないのです。政府方針には現実性がありません」

 建設分野は今でも実習生を受け入れていますが、田口氏によると、例えば鉄筋を扱う場合も実習生は危険で現場には出せないため、曲げや切断、溶接の作業を工場内で行っていることが多いといいます。

継承しない技術

 技能実習制度に詳しい福島大学の坂本恵教授は「期間が限定された外国人労働者で人材不足の穴を埋めても、肝心の建設技術が継承されません。政府の方針は制度目的である『国際貢献』という看板を投げ捨てた、あからさまな単純労働力の導入で、まさに弥縫(びほう)策、取り繕いです」と指摘します。

 建設の技能労働者数は2013年に338万人で、ピーク時の455万人(1997年)から右肩下がりに減少。55歳以上が約3割を占め、29歳以下は約1割と高齢化も進んでいます。

 「いまから外国人を受け入れても、建設技能を覚えたころには、もうオリンピックです。それよりも建設業から離職していった人を復帰させるのが本筋です。賃上げや社会保険の完備を進めないといけません。放っておけば、建設業は“絶滅職種”です」(田口氏)

 建設企業・団体の連合組織である日本建設業連合会が先に発表した「人材確保・育成に関する提言」(4月18日)でも、平均年収392万円(全産業平均530万円)にとどまる低い賃金水準の引き上げ、社会保険の未加入対策など「労働者の処遇の抜本的改善が不可欠」と説いています。

人権侵害の温床に

 外国人技能実習生の裁判に多く関わってきた指宿(いぶすき)昭一弁護士(外国人研修生問題弁護士連絡会共同代表)は「技能実習制度は、人権侵害を必然的に引き起こす根本的に間違った制度で、廃止すべきです。同じ枠組みを使って受け入れるのは、同じ問題をより深刻な形で引き起こすことになります」と指摘します。

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残る「奴隷労働」

 「同じ問題」とは何か。指宿弁護士が示したのは、岐阜県で縫製に従事した中国人技能実習生の事例(2011年9月〜12年4月)です。

 就業は午前8時から連日深夜に及び、残業時間は月270時間に達したことも。休みは年末年始の5日間だけで、1日の隙間もなく働きづめ。基本給は5万円、時間外手当として1年目は時給250円、2年目は時給350円、3年目は時給500円。作業場に遮光カーテンを設置して実態を隠し、深夜に及ぶ労働に従事させる…。

 「国際貢献」を看板にしながら、その実態は安価な労働力の確保策で、人権侵害の温床になっている―。日本弁護士連合会や全国労働組合総連合などがこぞって制度の「廃止」を提唱するゆえんです。

 10年7月に施行された改正入国管理法は、賃金未払いや外出禁止、パスポートの取り上げなど「奴隷労働」とも評された実習生の実態を改善するため、不正行為や不正管理の禁止措置を講じました。

 指宿弁護士は「奴隷労働」の実態は今もたくさんあると強調します。「問題が地下にもぐっています。実習生が労組や弁護士に駆け込めないよう(受け入れ先が)かん口令を敷き、圧力をかけている場合があります」

 これを裏付けるように、賃金未払いなど実習生が法令違反の是正を求めた申告数は08年の331件から126件(12年)と大きく減少しているのに、労働基準監督機関が監督指導した事業所数は法改定後もほとんど変わっていません。(グラフ)

 「建設分野で人を確保する必要性はあるとしても、日本の都合で外国から安い労働力を入れ、人権侵害があろうがなかろうが、利益が出ればいいなどという考えは明らかに間違っています。労働者としてきちんと権利を保護する枠組みを作ったうえで受け入れるべきです」(指宿氏)

ブローカー介在

 実習生の労働相談にあたってきた愛知県労働組合総連合の榑松(くれまつ)佐一議長は、「ブローカー(あっせん機関)の存在」という観点から制度を批判します。

 技能実習生を受け入れる団体(監理団体)は、実習生が各企業で適正に技能実習が行われているか否か、確認・指導することになっています。

 榑松氏がかかわったベトナム人実習生の事例では、監理していたのは表向きA協同組合でしたが、実際は営利目的の株式会社Bに丸投げされ、このB社が賃金不払いや罰金などの不正に関与していました。法務省の技能実習に関する「指針」は、典型的な不正行為として「株式会社が技能実習に関する職業紹介を行っていた場合」をあげています。

 榑松氏は、建設分野での外国人材の活用についても「ブローカーが必ず出てくる」と懸念します。「日本全体が派遣労働のような中間搾取を合法化する流れのなかで、財界は『人間を輸入する』感覚で、国際的な人材ビジネスでも考えているのではないか。その導入にオリンピックや建設分野を使おうとしている」

外国人も日本も富める道を

 安倍首相は外国人材の活用について「移民政策と誤解されないよう配慮しつつ」(4月4日)と述べています。

 坂本教授は「移民政策というのは健康や教育、結婚、就労、年金など、一人の人間が生きて死ぬまでのシステムを構築することです。首相の発言は『日本はそれはやらない、でも働いてもらう』という宣言です。外国人を『期間限定の労働力』として扱うという発想です」と読み解きます。

 「このような弥縫策は根本的に改め、外国人労働者を単に労働力としてではなく、人間として受け入れていく必要があります。そうすることで外国人労働者も豊かになり、同時に安定して働いてもらえることで日本も豊かになっていきます」


 外国人技能実習制度と政府の「緊急措置」 技能の移転を図り、母国の経済発展を担う人材育成を目的とした「国際貢献」を建前にしています。最長3年間、雇用関係のもとで技能を修得する制度です。約15万人が「技能実習」の資格で在留。中国、ベトナムなどから受け入れています。政府が考える「緊急措置」は、建設技能実習修了者が、引き続き日本に在留、あるいは再入国し、「特定活動」の在留資格で最大で2年以内(再入国者で帰国期間が1年以上のものは最大3年以内)、建設業務に従事できるようにします。


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