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2013年1月7日(月)

安倍内閣 TPPへ前のめり

財界圧力 日米首脳会談で焦点に

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 安倍晋三首相の下で環太平洋連携協定(TPP)参加問題が緊迫してきました。総選挙後、自民と公明の連立政権合意文書では「国益にかなう最善の道を求める」と明記するなど、TPP参加へ前傾姿勢を強めています。

 (北川俊文)


 安倍首相は、産経新聞のインタビューに対し、「聖域なき関税撤廃という前提条件が変われば、当然参加ということも検討の視野に入ってくる」(12月31日付)と、以前より踏み込んで回答しました。自民党の石破茂幹事長も28日、今年夏の参院選前に党の方針を決める考えを示しました。

 今月中にも開かれる日米首脳会談でTPP参加問題が焦点になっています。安倍氏は総選挙直後の昨年12月18日、オバマ米大統領との電話会談でも、「国益に即して積極的に自由貿易を推進するという立場だ」と伝えています。

 経団連の米倉弘昌会長は新年のメッセージで、TPP参加をはじめ諸外国との高いレベルの経済連携の実現は「待ったなし」だと督促しました。

 他方、全国農業協同組合中央会(JA全中)の萬(ばん)歳(ざい)章(あきら)会長は年頭あいさつで、「国内には依然としてTPP交渉参加に向けた動きがあります」と指摘し、「交渉参加断固阻止に向け、関係団体等との連携を強化し、一層の国民運動を展開してまいります」と表明しました。

 日本農業新聞が行った同紙農政モニター対象の意識調査で、TPP交渉参加反対が全体で75・9%を占め、自民党支持層では80・0%にのぼりました。同紙は「内閣の対応次第では、自民支持層の離反をも招く可能性がある」と指摘しています。(同紙4日付)

聖域なき関税撤廃 承知の上

 環太平洋連携協定(TPP)交渉は、21分野について24部会で行われています。これまでに、15回の交渉会合が開かれました。今年中の交渉妥結を目指しています。

 交渉の中間まとめとして11年11月12日発表された「TPPの輪郭」は、「関税並びに物品・サービスの貿易及び投資に対するその他の障壁を撤廃する」としています。政府が12年3月1日付でまとめた「TPP交渉参加に向けた関係国との協議の結果(米国以外8カ国)」でも、「全品目の関税撤廃が原則」で、「90%から95%即時撤廃し、残る関税についても7年以内に段階的に撤廃すべしとの考えを支持している国が多数」としています。

 直近の第15回交渉会合が昨年12月3〜12日、ニュージーランドのオークランドで開かれました。今回、カナダとメキシコが加わり、交渉参加国が11カ国になりました。両国の新規参加の条件は、先行9カ国が「すでに合意した条文をすべて受け入れる」ことでした。加えて、米国との事前交渉では、北米自由貿易協定(NAFTA)で合意しなかった品目の追加“自由化”を求められました。

知的財産権の保護など議論

 TPP交渉は秘密交渉で、交渉内容は公式には公表されません。現地から伝えられる情報によると、オークランド交渉会合では、知的財産権の保護、国有企業の扱い、投資家対国家紛争の解決(ISDS)などが話し合われたもようです。

 知的財産権の保護に関し、米国は、患者負担を軽くするオーストラリアやニュージーランドの薬価制度の掘り崩しを狙っています。しかし、今回は交渉がまとまらず、次回のシンガポール交渉会合へ先送りされました。米国案に対しては、著作権保有者の保護を強化する一方、消費者の保護が不十分だとして、批判もあります。

 国有企業の扱いで、米国案は、民間企業と競争条件を同じにするよう求めており、国有企業の比率の高いベトナムやマレーシアが反対しています。他の国も、国有企業の定義が広く、郵便事業など公共性の高い分野も対象にされかねないと危(き)惧(ぐ)しています。

 ISDSは、不利益を被ったとする外国企業が進出先の政府を相手取り、損害賠償や施策の中止を求める訴えを起こすことができるものです。

 オーストラリア政府は現在、香港との相互投資条約に基づき、米国たばこ企業の香港子会社から「たばこ包装規制法」の中止を求める訴えを起こされています。同国はISDSの導入に否定的です。ニュージーランドの世論調査によると、ISDSを含むTPPを「拒否すべきだ」とする人が64%にのぼっています。

 交渉では、米国も自国の農産物市場のいっそうの開放を求められています。ニュージーランドのキー首相はオークランド交渉会合を前に、酪農製品の関税が撤廃されない限り、協定に署名しないと言明しました。オーストラリアの製糖業界は、砂糖や他の農産物の市場開放を進めないなら、交渉から撤退すべきだとしています。

多国籍企業の利益のために

 自民党は選挙政策では、「『聖域なき関税撤廃』を前提にする限り、交渉参加に反対します」として、明確な態度を示しませんでした。農村部では、交渉参加反対を強調した候補者も少なくありませんでした。

 公明党は衆院選重点政策では、「十分審議できる環境をつくる」と述べるにとどめ、態度を示さず、有権者の審判を避けました。

 その一方で、安倍総裁は日本商工会議所との懇談で、「『聖域なき関税撤廃』を突破する交渉力が自民党にはある」と述べ、交渉参加へ意欲を見せてもいました。

 政府がまとめた「TPP交渉参加に向けた関係国との協議の結果」でも、「包括的自由化がTPPの原則であり、全品目の関税撤廃を目指して交渉を行っている」ことが明らかです。それを承知で、交渉で「聖域なき関税撤廃」を突破できるかのように言うのは、国内世論向けのごまかしにすぎません。

 オークランド交渉会合に見られるように、主に交渉されているのは、多国籍企業が国境を越えてもうけを追求するために、各国の制度を米国基準で共通にすることです。日本の財界が交渉参加を急ぐ理由は、むしろそこにあります。「聖域なき関税撤廃」を受け入れて、多国籍企業本位のルールづくりに参画しようというのです。

 過去の自民党政権の下で行われた日米経済交渉では、「守るべきもの」さえ次々に明け渡しました。輸出大企業の海外市場を確保する見返りに、農産物の国内市場を際限なく明け渡し、農業を衰退させ、食料自給率を39%まで低下させました。そのことでも、「交渉力」の実質が分かります。

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