2012年5月27日(日)
きょうの潮流
「できることなら娘を返してほしい」。先ごろ、東京のタクシー運転手、千財信行さんの無念の声が伝えられました▼娘の明菜さんは、東京・渋谷の温泉施設の爆発で亡くなりました。そこで働く23歳でした。あれから5年。信行さんは時々、乗客を事故現場の近くへ運びます。手を合わせ、明菜さんに語りかけます。「近くに来られたよ」▼従業員3人の命を奪った爆発は、天然ガスに火がついて起こりました。屋外に出せば散らばるガスが、室内にたまったようです。設計・工事にあたった会社の、責任が問われています。首都圏の地下には、水に天然ガスが溶け込んだ南関東ガス田が広がります▼天然ガスは、メタンが主な成分の、天然の燃えるガスです。燃やしても、石油や石炭ほど二酸化炭素が出ません。江戸時代、越後を旅した人はこの世とは思えない光景に仰天しました。地中から火が噴き出し、燃え続ける。「まさに奇中の奇なり」。地元の人は天然ガスを「風草生水(かぜくそうず)」とよび、煮炊きなどに使っていました▼越後の新潟は、いまも天然ガス生産で全国の7割近くを占めます。南魚沼市の工事中のトンネルで起こった爆発も、天然ガスに火がついたせいのようです。工事を請け負った会社の現場監督と下請け労働者の4人が閉じ込められたまま、きょうで3日。一刻も早く救いだされるよう願うばかりです▼いったい、天然ガスの危うさをどれほどしっかり調べていたのか。爆発を防ぐ備えは万全だったのか。憤りと疑いが募ります。