2011年11月10日(木)
公務員交渉権侵害の州法
住民投票で廃止
米 オハイオ州
【コロンバス(オハイオ州)=西村央】米中西部オハイオ州で8日、36万人以上の州公務員の団体交渉権を奪う州法をめぐり、住民投票が実施されました。反対が60%を超えて賛成を圧倒し、この州法の廃止が決まりました。共和党知事が主導した公務員の権利に対する攻撃に、住民は「ノー」を突きつけました。
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廃止が確定的となった午後9時半すぎ、「州法にノーを」という運動を続けてきた団体がコロンバス市内に設けた決起集会会場は大歓声に包まれました。
高校教職員組合の代表が壇上から「私たちは勝利した。これで明日、胸を張って職場に行けます」と宣言。駆けつけた市民からは「オハイオ全体の勝利だ」との声があがりました。
会場で団体職員のクリスチャン・ロデスさん(28)は、「教育や消防などを担う公務員は、その家族ともどもこの社会の構成員です。公務員の権利が奪われ、地位が不安定になると社会全体に悪影響をもたらす。このことが理解された」と背景を語りました。
今回の住民投票にかけられた州法は、昨年の中間選挙でティーパーティー(茶会)ブームに乗って当選した共和党知事が、「州の財政削減の一環」として提起したもの。公務員の医療保険給付や年金などで団体交渉権を奪い、一方的に給付の引き下げなどを図ろうとしていました。
これに対して、反対派の住民は「労働者の基本的人権にかかわる問題で、将来にわたっても禍根を残す」と主張。3月末の州法成立後、住民投票のための署名集めなどに取り組んできました。
解説
公正さ求め 勝利
今回のオハイオ州の住民投票では二つの点を州の有権者に問うたと言えます。
一つは、公務員の基本的な権利です。特に州法で奪われる団体交渉権はたたかいのなかで獲得し、医療保険給付の改善などで力になってきたことから、これを将来にわたって失うことの重大性です。
もう一つは、米国で富裕層に富が集中する一方で、中間層全体の所得が停滞しているなか、公務員の権利が奪われることの意味です。中間層全体の活力がさらにそがれ、地域社会への影響も大きいと訴えました。
人口1150万の同州で、住民投票を求める署名数は130万人にも達し、州法廃止への要求が強いことを示していました。
署名集めに参加したリサ・ワーンさん(28)は「社会的な安定や公正さを求めるための運動だった」と語り、公務員の権利擁護にとどまらない内容があったことを指摘します。
昨年、同州で共和党勝利の要因となったのは「小さな政府」で財政削減をという旋風でした。それが今回は「公務員の基本的権利は、中間層全体の生活の安定につながる」との主張が共感を集めました。
米国では昨年の中間選挙で、右派の草の根運動「茶会」に推された知事が各地で誕生した後、労組の団体交渉権を奪う州法は同州のほか、ウィスコンシン州などでも導入されました。
今回、オハイオ州の住民投票の勝利が各地に影響を及ぼすかどうか。現在全米で繰り広げられている格差是正の「オキュパイ(占拠)」運動とあいまって、今後の展開は注目されます。 (西村央)
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