2011年9月7日(水)「しんぶん赤旗」

主張

寝たきり専用賃貸住宅

ビジネス排し尊厳守る介護を


 「寝た専賃」(寝たきり専用賃貸住宅)と呼ばれる高齢者施設にようやく行政のメスが入りました。

 要介護度5か4で、口から食事をとれず、鼻やおなかに管を通す経管栄養のお年寄りだけを入居させている施設です。「賃貸住宅」が表看板ですが、医療、看護、介護サービスからオムツの購入まで、設置者と一体の提携業者と契約することを強制し、設置者はそこから利益をあげる仕組みです。日本共産党の山下芳生参院議員が3月の予算委員会で政府に実態調査を約束させ、厚生労働省が、その調査結果を公表しました。

人生の最後を“食い物”

 厚労省の調査結果では、寝たきりで経管栄養など常時介護が必要な高齢者のみを入居対象にしている施設は、秋田、神奈川、岐阜、福岡の4県、10施設でした。しかし、老人福祉法で立ち入り調査ができる有料老人ホームは一部に限られており、これは氷山の一角にすぎないとみられます。

 「寝た専賃」は、1日3回看護師が来て順番にチューブで流動食を与えるだけで、食事の用意や人員も不必要、少ない手間で高い介護報酬を得られるのが付け目です。家賃より介護報酬を得るのが目的なので、介護度が下がり寝たきりでなくなると料金を引き上げる、病院に入院した場合は入居契約を解除するなどの条件を、入居時に承諾させています。

 生活保護受給者を囲い込み、家賃や食費の名目で保護費をピンはねする「貧困ビジネス」の介護保険版というべきものです。貧弱な施設で、食べる楽しみもなく、ただ寝たきりのまま最期のときを待つ高齢者は、あまりに悲惨です。

 それでも、福祉関係者のなかに「寝た専賃」を「必要悪」と認める見方もあります。利用者の家族にも、介護苦をやっと免れられたと施設に感謝する人がいます。

 「終わりのない暗いトンネル」にもたとえられる介護。介護のため仕事を辞める人は毎年十数万人、親が倒れると約2割の人が離職を余儀なくされます。親の介護のため、仕事も結婚もあきらめる若い世代もたくさんいます。介護を苦にしての悲惨な事件、高齢者の孤独死も後をたちません。

 「介護を社会化する」はずだった介護保険制度が、まともに機能していません。高すぎる保険料・利用料、必要な介護サービスのとりあげ、深刻な施設不足と待機者の急増、介護労働者の労働条件悪化と人材不足。問題は複合的で、結局、家族介護の現場に耐えがたい苦しみを負わせています。

 高齢者の本来の“受け皿”であるべき特別養護老人ホームの待機者は42万人、介護型療養病床も廃止が続きます。行き場所を失った高齢者が「食い物」にされる状況を断ち切らなければなりません。

特養ホーム増でこそ

 人生の最期のときまで、人は尊厳と自立を守られるべきです。金もうけ目的の施設がこれ以上広がることを許さず、行政は、施設の実態把握と厳格な指導を強めるべきです。さらに、良質な介護サービスを提供する特養ホームなどの介護基盤整備を、緊急にすすめなければなりません。

 「だれもが安心して老後を過ごせる社会」は、世代を超えた国民の願いです。必要とする人が、必要な介護を受けられる公的介護制度を、いまこそ実現すべきです。





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