2011年8月14日(日)「しんぶん赤旗」

きょうの潮流


 あの大戦の元兵士たちの膨大な数の手記や体験記を読み込んでその意識が歳月とともに変遷するさまを追跡した、一橋大学大学院教授・吉田裕さんの新著『兵士たちの戦後史』(岩波書店)は、読み応えがあって叙述が生き生きとした研究書です▼あとがきに、美大でアニメの勉強をしている娘さんへの願いを吐露しています。「どうも父親の本など一冊も読んだことはないようだが、読まないまでもこの本だけは手にとってほしい」▼吉田さんは若いころ父親の世代の戦争体験に無関心だった、そのことへの「自責の念」が執筆動機だと明かし、この本は自分の「半生記」のようなものでもあるから読んでほしいのだと書いています。著書が多い現代史家が娘に語り継ぐほほ笑ましい光景も浮かびます▼同じようなことを友人から聞きました。派遣会社をやめて3カ月余り東南アジアを旅してきた娘さんが言うには、旅先で出会った各国の若者たちはだれもが自分の国の歴史と政治についてよく知っていた、どうもその知識は父母から聞かされたもののようだ、自分は何も話せなくて恥ずかしかったと▼それを聞いて友人は、これまでの60年近い人生体験から、これといって子どもに語り聞かせるような機会はあまりなかったなあと述懐していました▼2人の父親はその父親が兵隊体験があるかないかのいわゆる戦中派です。戦後66年がたって、父母・祖父母やその世代による歴史の口承が、それも自分史と重ねてもっと大切にされていいのかもしれません。





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