2011年6月29日(水)「しんぶん赤旗」

主張

B型肝炎和解調印

首相謝罪を言葉だけにするな


 「(感染の)拡大を防ぐ努力が結果として十分でなかった。国を代表して心からおわびする」。B型肝炎訴訟で国と原告が和解調印したのを受け、菅直人首相が原告患者にのべた“謝罪”の言葉です。

 B型肝炎は、国がその危険性を十分予見しながら、40年間もの長期にわたり予防接種の注射器使いまわしを放置したことで感染が拡大しました。国の加害責任は2006年の最高裁判決でも明確にされており、被害者への賠償は国の義務です。首相の謝罪を言葉だけのものにすることなく、すべての国民と被害者への実効ある対策をすすめることが政府の責任です。

争う余地ない国の責任

 今回の和解合意には▽集団予防接種の注射器使いまわしでB型肝炎被害を生じさせた国の責任と謝罪▽恒久対策と再発防止のための第三者機関の設置▽原告・弁護団と国との継続的協議の場の設定―が盛り込まれました。B型肝炎問題は終結したのではなく、解決のための出発点に立ったのです。

 最終の和解協議で札幌地裁の裁判長がのべた異例の「所感」は、この合意が「ベストということではない」としたうえ、今後の「立法措置の際には、あらためて国会その他の場で御討議頂いて、よりよい解決を」と呼びかけています。

 とりわけ、和解金は薬害肝炎救済法の賠償水準さえ下回り、死亡者を含む発症者は最高でも3600万円、発症前の持続感染者は50万円、肝炎を発症して20年以上を経過した人は民法の規定により賠償請求権が失われているとして150万〜300万円の和解金などを支払うというものに抑えられました。それでも、重症患者が多く、早期解決のため、「苦渋の選択」で和解に合意せざるをえなかった原告の心情に、政府と国会はしっかりと目を向けるべきです。

 全国原告団代表の谷口三枝子さんは和解合意にあたり、国が原告の被害救済と増税を同時に口にしていることについて、「B型肝炎患者は国民にとって増税の原因になる迷惑な人たちなのだという偏見を新しく作り出すことではないでしょうか」と訴えました。

 政府は和解金支払いなどで当面5年間に1・1兆円、その後の25年間に2・1兆円、計最大3・2兆円の財源が必要になると試算し、増税を持ち出しています。

 しかし、この試算は対象となる患者が100%提訴することを前提にしたもので、現実の提訴の困難さからすれば、あまりに過大といわざるをえません。そんな無責任な数字を独り歩きさせ、増税の脅しで国民と原告の間にくさびを打ち込み、分断をはかる卑劣な行為は、もうやめるべきです。

国民的理解広げ解決を

 1994年の予防接種法改正まで、予防接種は国民の義務として行われていました。注射器使いまわしによるB型肝炎ウイルスへの感染は、実は国民だれもが同じ危険にさらされていたのです。

 感染した人たちはいつ発症するかもしれないという恐怖にさらされ、社会的な無理解から就職や結婚などでの差別に傷つけられ、重い健康被害で命まで奪われました。いま国がしなければならないのは、被害への償いを誠実に行い、事実を正確に知らせて国民的な理解を広げること、そして、被害者が「私はB型肝炎患者だ」と胸を張っていえる社会を築くことです。





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