2011年6月12日(日)「しんぶん赤旗」

三菱UFJ“自作自演”

介護改定 子会社が立案、親銀行が利益


 メガバンク系シンクタンクが深く関与した介護保険制度改定で高齢者住宅ビジネスが広がり、同シンクタンクの親銀行が利益を拡大する―。今国会で審議中の介護保険法改定案をめぐり、こんな「自作自演」の構図が浮かび上がりました。

 介護保険制度改定の検討に関与したシンクタンクは「三菱UFJリサーチ&コンサルティング」(リ社)。三菱東京UFJ銀行の連結子会社です。

 リ社は、2008年から3年連続で厚労省の研究事業に採用されて補助金を受け、介護保険法改定案の中核をなす「地域包括ケア」「巡回型訪問サービス」の研究・検討会を立ち上げて報告書を発表。民主党政権はリ社の「地域包括ケア研究会報告書」(10年4月)を「参考としつつ…介護保険制度のあり方について検討」(10年5月に閣議決定した答弁書)し、改定案をまとめました。

 実際、改定案はリ社の報告書を反映。「地域包括ケア」の名で、特養ホーム整備の代わりに高齢者向け集合住宅を増やし、外部の介護事業所から巡回型訪問サービスを提供する政策を進める内容となっています。

 一方、親会社の三菱東京UFJ銀行は、高齢者住宅ビジネスに参入している営利企業の株主として利益をあげています。同行は、高齢者住宅・施設の運営室数全国3位(10年、「高齢者住宅新聞」発表)の「ニチイ学館」の大株主(10年9月現在)で、同7位の「ハーフ・センチュリー・モア」の株主でもあります。また、「メッセージ」(同1位)の主要取引銀行として融資を行い、「ベストライフ」(同4位)の取引銀行にもなっています。

 長妻昭厚労相(当時)が10年8月に視察した「学研ココファン」も、三菱東京UFJ銀行が大株主である「学研ホールディングス」の孫会社。視察に同行した前原誠司国交相(当時)は、「ココファン」が運営するのと同様のサービス付き高齢者住宅を10年間で60万戸整備する方針を表明しました。

 営利企業は特養ホームを運営できませんが、高齢者住宅への参入には制限がなく、利益を株主配当に回せます。

 本紙の取材に対し、リ社は「グループ企業の利益拡大を意図して政府の政策立案に関与したことはない」と回答。三菱東京UFJ銀行からの回答はありませんでした。


解説

介護改定に関与の三菱UFJ

「市場成長の追い風」と論文

図

 三菱UFJリサーチ&コンサルティング(リ社)は、2008年にリポート「介護保険『混合介護市場』の可能性」を発表しています。執筆したのは、今回の介護保険法改定案の中核である巡回型訪問サービスの検討会(厚労省の補助金事業)に携わった経済・社会政策部の主任研究員です。

 同リポートは、12年(今回)の制度改定などで介護保険給付の「カバー領域」が縮小する方向が「必至」だと断言します。その上で、保険範囲の縮小と並んで、家族の援助を受けられない高齢者が増えていくことを、保険外サービスの「市場の成長の追い風」だと指摘。「大手介護企業」に対し「介護サービスや生活支援サービス商品の開発が期待される」とハッパをかけています。

 リ社の親会社である三菱東京UFJ銀行は、保険外サービスを売る大手介護企業の大株主です。政府は、介護保険給付の縮小で利益を得る企業グループの一社を介護保険制度の改定作業に関与させ、その一社がまとめた報告書を「参考」に法案をつくった形です。

 国民の生存権保障に責任を負う国が、社会保障政策の立案過程に、その政策に利害関係をもつ営利企業を組み入れることが妥当なのかが問われます。

 問題は一企業の利益拡大にとどまりません。財界は一貫して介護保険給付の範囲を狭めるよう求めてきました。給付費が減り大企業の保険料負担が軽くなると同時に、保険外サービスのビジネスチャンスが広がるからです。

 しかしその方向は、介護の必要な高齢者には大幅な負担増です。

 公的な介護保険施設である特養ホーム(ユニット型個室)の利用料は、東京都の場合、居住費・食費・生活費・介護保険利用料を含めて市町村民税非課税の人で月6万2千〜10万5千円。年金収入211万円以上の人で月14万円程度です。

 ところが長妻昭前厚労相が視察した横浜市の高齢者住宅では、収入に関係なく賃料・共済費・緊急通報などの基本サービス費だけで月最低12万7千円かかります。食事提供を3食受けると5万4千円上乗せ。介護保険の訪問サービスや保険外サービスを使えばその利用料が加わります。

 一方、厚労省は42万人に上る特養の待機者について、在宅サービスの強化と高齢者住宅の整備などで「解消を図る」(5月12日「社会保障制度改革の方向性と具体策」)とし、特養の抜本増設を放棄する姿勢です。中所得者の負担が急増し、低所得者が到底入居できなくなる政策です。

 リ社の08年リポートはまた、介護保険制度改定の見通しとして▽中・重度介護者に対象を限定(「軽度者」切り捨て)▽身体介護にシフト(生活援助切り捨て)―などをあげていました。この方向につながる制度改定も今回の法案に含まれており、重大です。

 政府はこの法案を今週中にも成立させようとしています。(杉本恒如)





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