2011年5月25日(水)「しんぶん赤旗」

原発事故

海水注入中断で問われる―

政府と東電 責任なすりあい

根本に「安全神話」…ズサンな危機管理


 事故直後の福島第1原発1号機への海水注入中断問題で菅直人首相の対応が改めて問われています。

 福島第1原発事故は、この間の国会論戦などによって、「安全神話」にしばられ過酷事故への備えがなかったこと、事故後の政府・東電の対応が後手に回っていたことが浮かび上がり、二重の「人災」であることが明らかになっています。

初動対応は迷走

 今回、問題になっているのは、事故直後の対応で原子炉の冷却が緊急に求められていた状況で、海水注入の中断が事態を悪化させたのではないかという疑いです。

 政府が原子炉等規制法にもとづき、1号機への海水注入を東電に指示したのは、大震災翌日の3月12日午後8時5分でした。全電源喪失による冷却機能喪失、炉心溶融がすすんでいる可能性が地震直後から政府内で認識されていたにもかかわらず、29時間がたっていました。(東電は5月24日に、地震発生から約15時間後に1号機で全炉心溶融=メルトダウン=が起きていたと発表)

 事故対応の初動として、蒸気を抜いて原子炉内の圧力を下げること(ベント)と、外から冷却水を注入して炉内の温度を下げることが緊急に求められていたのです。

 このとき――。

 政府と東電の「統合対策室」の発表によれば、3月12日午後6時ごろから菅首相の指示で原子力安全委員会や保安院、東電などの会議で海水注入の検討を始め、6時20分ごろに海江田万里経産相が海水注入の準備を指示。東電は7時4分に「試験注入」を開始します。ところが東電は7時25分に注入を停止。8時20分の再開まで約55分間も中断しました。

 この経過が問題となり、海水注入の検討会議で「再臨界の危険性がある」との班目春樹原子力安全委員長の指摘を受け、再臨界を恐れた菅首相が中断を指示したと報じられ、首相の責任に注目が集まりました。

 班目氏の訂正の申し入れ(22日)で、「再臨界の可能性はゼロではない」と発言が修正され、菅首相も23日の衆院大震災復興特別委員会で、「(海水注入の)報告はなかった。報告が上がっていないものを『やめろ』というはずがない」と全面否定しました。

 関与を否定する菅首相ですが、東電の受け止めは違います。

 東京電力側は23日夜の記者会見で、菅首相が注水中断の指示を全面否定したことについて問われ、「(再臨界の)懸念・議論がされていることがわかったので、海水注入に関してはいったん停止して官邸の判断を仰ぐことになった」(松本純一原子力・立地本部長代理)と説明。官邸側が示した再臨界への懸念をくみ取って注水を中断した経過を明らかにしました。

東電に任せきり

 「注水の報告はなかった」「知らなかった」から中断の指示はありえないという菅首相答弁も、額面通りに受け取っていいのか。

 初動で事故対応の中心にいた海江田経産相は参院予算委員会(5月2日)で、東電の「試験注水」終了後に菅首相から「本格的な注水をやれ」と重ねて指示されたと答弁しているのです。東電の「試験注水」の事実を知らなければ、「本格的注水」という言葉は首相の口から出てきません。

 首相が可能性の低い再臨界を恐れて1時間近くも注水を中断させたというのが仮に事実だとすれば大きな問題ですが、首相のいうように東電による「試験注水」の事実さえ知らなかったとすれば、事故対応を東電に任せきっていたことになり、これも重大問題です。

 今回浮かび上がった海水注入をめぐる政府や原子力安全委員会と東電の間の大混乱。「注水中断」をめぐる責任のなすりあい、事実関係をめぐる修正・弁明の応酬は、「安全神話」に頼りきって過酷事故を想定せず、何の備えもしてこなかった政府と東電の危機管理のズサンさを如実に示しています。





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