2011年5月23日(月)「しんぶん赤旗」

主張

「君が代」強制条例

民主主義と教育の条理に逆行


 大阪府の橋下徹知事が代表を務める「大阪維新の会」が、19日から始まった、いっせい地方選挙後初の府議会に、公立学校の入学式や卒業式などでの「国歌斉唱」の際、教職員に「起立」を強制する条例案を提出しようとしています。橋下知事は、教職員が「不起立」を繰り返せば懲戒免職処分にできる条例案も、9月議会に提出する方針だと明らかにしています。

一人ひとりが決める問題

 条例で起立を強制するなどというのは全国でも初めてです。しかも「維新の会」は選挙中条例案にはふれていませんでした。それを突然持ち出し数の力で押し通そうというのです。自民党府議団も府立学校を含む府の施設で「国旗」の常時掲揚を強制する条例案を提出するといいます。異常な強制を許さない世論と運動が急務です。

 「君が代」斉唱の際に起立するかどうかは、一人ひとりが決める問題です。法令で強制できないことは、民主主義のイロハです。このことは「国旗・国歌法」の成立が強行された1999年の国会でも幾度も確認されてきました。

 「君が代」はかつて侵略戦争の象徴として扱われ、歌詞に主権在民と矛盾する意味があることから、国民のなかには根強い批判があります。起立しない自由や歌わない自由は、憲法19条「思想・良心の自由」によって厳粛に保障されているものです。

 学校の入学式や卒業式でも、斉唱の際起立するかどうかはやはり教職員一人ひとりが決めることです。実際には「君が代」に批判的見解をもっていても式全体を考えて起立するなどさまざまな選択があります。いずれにせよこうしたことは一人ひとりが良心にもとづいて行うことであり、条例で義務づける次元の問題ではありません。

 「君が代」強制の舞台が、教育現場であることは特に深刻です。

 橋下府知事は会見で「法律にもとづいて仕事をする公務員」が起立しないのでは、「組織が成り立たないし、仕事も進まない」と述べました。教育公務員は憲法と法律にもとづいて仕事をしていますが、その中身は子どもたちとの人格的接触をつうじた文化的営みとしての教育です。人間的主体性が不可欠で、条例や命令でがんじがらめにしてはならない種類の仕事です。

 だからこそ、教育行政は一般行政と異なり、命令監督ではなく指導助言をむねとし、最高裁判決は法律にもとづく教育行政の行為でも教育への不当な介入となり得ると判じ、教育内容への国家的介入の抑制を求めているのです。

 「君が代」強制に反対している先生のなかには、いい仕事を通じて子ども・保護者からの信頼が厚い先生が少なくないことは、現場でよく知られている事実です。起立かどうかを一点突破で迫る知事の姿勢には、道理がありません。

自由で人間味ある教育

 知事のいう「仕事」「組織」とは何でしょうか。それは、上からいわれた通りのことをこなすことであり、そのための上意下達の組織ではないでしょうか。そんなことでは、自由で人間味のある教育は影をひそめます。それで一番困るのは、大阪の子どもたちです。

 行政に求められるのは、学校耐震化や少人数学級の推進、「子どもの貧困」の克服などの諸条件の整備です。民主主義と教育の条理に反した強制は、撤回すべきです。





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