2011年5月20日(金)「しんぶん赤旗」

患者に定額負担 上乗せ

厚労省 医療・介護「改革」の具体案


 政府の「社会保障改革に関する集中検討会議」(議長・菅直人首相)が19日に開かれ、厚生労働省が医療・介護「改革」の具体案を提示しました。医療では、現役世代で3割となっている現行の窓口負担に上乗せして「定額負担」を求める案を示すなど、医療・介護の国民負担増を打ち出しました。

 受診時の定額負担上乗せの金額は明示しませんでしたが、民主党内には1回当たり100〜200円程度の負担を求める案があり、数千億円の負担増になるとみられています。医療の入り口で負担を重くし、受診抑制を広げる政策です。

 これによって新たに生まれる財源は、医療費の患者負担に上限を設けている高額療養費制度の「セーフティネット機能の強化」に回す意向を示しました。「財政中立」(国負担に増減なし)の方針を貫き、「保険給付の重点化」を行う施策と位置づけています。

 重い患者負担による受診抑制や難病患者の治療中断が社会問題化し、対処が迫られています。しかし、国が負担増となる方策はあくまで避け、むしろ給付費を抑制するために、患者全体に負担を押し付けて受診抑制を広げる策を持ち出した格好です。

 後期高齢者医療制度については、「うばすて山」といわれる現行制度とほとんど変わらない民主党の新制度案の導入を前提としています。国民の批判を浴びて現在1割に凍結されている70〜74歳の患者負担を2割に引き上げて、国費を減らす方針です。

 介護分野では、介護保険料を支払う年齢(現在40歳以上)の引き下げ検討を新たに打ち出しました。

解説

厚労省案

「医療・介護崩壊」への対処逆手に

国民全体への負担増

 厚生労働省が19日の社会保障「改革」集中検討会議に提示した医療・介護「改革」案は、旧自公政権による社会保障費削減の「構造改革」を継承する方針を具体化し、国民に負担増を求める新たな施策を打ち出しました。「医療崩壊」「介護崩壊」への高まる批判を背景に、若干の手当てを書き込まざるをえませんでしたが、それすら負担増・給付抑制策とセットです。

生存権の侵害

 1984年まで無料だった健康保険本人の患者負担は現在医療費の3割に引き上げられています。「必要なときに医療を受けられない」不安を感じる人は74%に達し(2010年1月、日本医療政策機構の世論調査)、重い患者負担がすでに受診抑制を引き起こしているのが現実です。

 さらに上乗せして「定額負担」を求める厚労省案は、受診抑制に拍車をかけて病気を重症化させかねません。生存権の侵害です。民主党内では100円程度の上乗せ案が出ていますが、いったん導入されれば次第に引き上げられるのは、これまでの歴史から明らかです。

 厚労省が「長期・高額医療」の患者への支援強化を口にするのは、「受益者負担」主義による患者負担の増大が国民の生命を脅かしている現実を認めざるをえないからです。

 それならば、憲法が明記する生存権保障の責任を果たし、国費で患者負担を軽減するのが当然です。患者全体に財源を求めるのは筋違いです。国民は社会保険料を負担しています。誰もが安心して医療を受けられるよう、患者負担は無料化をめざすのが社会保障本来の姿です。

理解得られぬ

 介護分野で厚労省が示した保険料支払い年齢の引き下げは、39歳以下の世代への純然たる負担増であり、自公政権下で浮かんでは沈んでいった案です。大企業による雇用と賃金の破壊に苦しむ世代にこれ以上の負担を押し付ける政策は、到底理解をえられません。

 介護分野でも、国費を抜本的に拡充する方向こそが解決の道です。ところが集中検討会議では、軽度者を介護保険の対象から完全に外すなど厚労省案以上の国費削減を求める意見が噴出しています。

 「共助」の名で庶民に痛みの分かち合いを迫るのでなく、国が社会保障に責任を持ち、財源は過大な減税などで巨額の内部留保をためている大企業や大資産家に応分の負担を求めることで確保すべきです。

 民主党は自公政権を批判し、「医療・介護の再生」を掲げて政権につきました。公約を裏切って「構造改革」路線への回帰を政策化すればするほど、国民の新たな反撃を呼び起こさざるをえません。(杉本恒如)





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