2011年5月19日(木)「しんぶん赤旗」

ビンラディン殺害をめぐる三つの根本問題

―テロとのたたかいの国際的到達点に逆行


 米海軍特殊部隊は5月2日未明、国際テロ組織アルカイダの指導者であるビンラディンをパキスタンの首都イスラマバード近郊のアボタバードの潜伏先に襲撃し、武器をもっていなかったビンラディン本人のほか息子や側近など計5人を射殺しました。ビンラディンは、2001年9月11日の同時多発テロへの関与を自認し、世界各地で起きたテロ行為の首謀者である嫌疑もかけられています。テロとのたたかいを前進させるために、この作戦の検証が求められています。

 パキスタンの主権をも侵害する今回の殺害作戦は、国連安保理決議に照らしても、国際法の諸原則からいっても、またテロリズムにたいする国際的なたたかいの到達点から見ても、重大な問題をはらんでおり、テロ根絶にむしろ逆行する危険が強くあります。

 日本共産党は、9・11テロとそれにつづくアフガニスタン戦争に際して出された不破哲三議長(当時)と志位和夫委員長の連名の各国首脳あて書簡(01年9月17日付と10月11日付)で、野蛮なテロを根絶することは、21世紀に人類が平和的に生存する根本条件の一つになると指摘しました。

 国連は06年9月の総会で、アフガン戦争やイラク戦争の泥沼化の教訓も踏まえ、包括的な対テロ戦略(「グローバルな対テロ戦略」)を全会一致で採択しました。二つの書簡が強調している、軍事的報復ではなく、法と理性にもとづいた解決を求める立場は、この国連文書とも合致します。

 テロとのたたかいの最前線となっているパキスタン訪問(06年9月)で志位委員長はアジズ首相(当時)と会談したさい、テロ根絶のための次の三つの原則を強調しました。これは、国連の対テロ戦略の中心点を踏まえて、党の立場を発展させたものです。

 (1)貧困や地域紛争など、テロが生まれる根源を除去する。

 (2)テロを特定の宗教や文明に結びつけてはならない。

 (3)テロ根絶の方法は、国連中心で、国連憲章、国際法、国際人道法、基本的人権と両立する方法でおこなう。

 こうした国際的な到達点に逆行するものとして、今回の作戦には、大きくいって三つの根本問題があります。

1、国連決議、テロ対処の基本ルールに反する

 第1は、ビンラディンの殺害にいたった今回の作戦が、国際社会で確立している「法にもとづく裁き」というテロ容疑者への対処の基本ルールから逸脱し、その原則に反するものだということです。しかも、殺害が作戦の目的だった疑いが強くあります。

 「ビンラディンの殺害か拘束をアルカイダとの戦争の最優先事項とするようCIA(米中央情報局)長官に指示した」(1日、オバマ米大統領)、「降伏しない限りビンラディンを殺害することが認められていた」(4日、カーニー大統領報道官)など、米政権の発言からは、当初から「殺害」を優先した対応―いわば報復が意図されていたことが浮かび上がります。

 これは、9・11テロの翌日に採択された安保理決議1368などが、「テロ攻撃の実行犯、組織者、支援者を法の裁きにかけるために緊急に協力すること」をすべての国に求め、ビンラディン容疑者を逮捕して裁判にかける手順を想定したのに反します。

 国連人権理事会の特別報告者が今月6日に出した共同声明も強調するように、テロ容疑者にたいしては、「テロリストを犯罪者として扱い、逮捕、裁判、司法的処罰など法的手続きを踏む」ことが、世界で確立してきた基本ルールであり、国際諸条約に明記されているところです。

 先の二つの書簡の指摘にあるように、法にもとづく裁判による犯罪の処罰は、人類の生み出した英知の一つです。アルカイダの全貌を明らかにし、それを根絶することも、法にもとづく裁判を通じてこそ可能になります。特殊部隊による容疑者殺害は、その裁判による真相解明を不可能にしてしまいました。

2、主権国家にたいするあからさまな主権侵害

 第2は、米特殊部隊による今回の作戦が、パキスタン政府の同意を得ずにおこなわれ、国連憲章や国際法を踏みにじるあからさまな主権侵害であることです。

 パキスタン政府は3日の声明で、「米国政府がパキスタン政府への事前の通告やその許可なしに作戦を実施したやり方について、深い懸念と留保を表明する」とのべ、主権侵害にたいする強い不快感を表明しました。

 パキスタンは、アフガニスタンとの国境地域にテロ勢力が入り込み、米軍の対テロ作戦の最前線となっています。そのことを踏まえても、「国の領土保全および政治的独立は不可侵」(国連総会が70年に採択した「友好関係宣言」)であり、対テロ作戦を口実に無法が許されるわけではありません。テロ容疑者への対処の基本ルールからの逸脱が主権侵害を生んだことも重要です。

3、テロ根絶に逆行し拡大させる危険

 第3は、国連憲章の諸原則や国連決議に反する今回の殺害作戦は、国際社会の一致協力に役立たないだけでなく、中東ですすみつつある民主化の潮流に逆行し、テロ勢力に報復の口実を与えて、かえってテロの土壌を広げる危険性すらあるということです。

 米政府自身、「テロリストが復讐をこころみることはほぼ確実」(2日、パネッタCIA長官)として警戒を強めています。

 日本共産党は、先の二つの書簡にもあるように、国際テロを根絶するには、国際社会の一致団結した包囲によってテロリストを孤立させ、逃げ場を地球上からなくす必要があると指摘してきました。すべての国が一致して参加する持続的・包括的なアプローチによってこそテロを根絶できるという原則は、9・11以降に国際社会が確立してきたきわめて重要な教訓であり、06年に国連総会が採択した対テロ戦略の核心をなしています。

 今月2日の安保理議長声明は、ビンラディンの死に「歓迎」を表明しながらも、「テロリズムは、すべての国、国際・地域組織、市民社会が積極的に参加し協力する持続的で包括的なアプローチによってのみ打破できる」と強調しました。こうした一致協力は、国連憲章や国際法が厳格に守られてこそ可能です。

 テロ根絶のためにいま求められるのは、先に紹介した三つの原則をふくめ、わが党の到達点でもある国際的な到達点に立脚した国際的な大同団結の発展です。





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